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「自殺」を出版した末井昭さん(4)誰も「自殺」が人ごとではない

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 ――経済的なことも自殺の原因の上位に入りますが、ご自身も借金地獄を経験されて、最高で3億円。実用書としても対処法を書かれていますね。ないものはないと居直ってしまえ、返せる範囲で返したらいいと。野放図に貸した方にも問題があると自分を納得させたり。ホームレスのおじさん二人のことも書かれていて、無一物になってもなんとか生きられるものだという事例を紹介したり。

 「漫画家の吾妻ひでおさんの『失踪日記』なんかも、すごいなと思うんですよね。ラーメン屋さんが豚の脂身を捨てているのを拾って、それを刻んで料理するとか。まあ生きられるんですよね。お金なんかなくても」


 ――金のことで死ぬのはバカらしいと強くおっしゃっていますね。

 「たぶん、自殺する人はお金から派生した夫婦関係の問題とか、貸した側借りた側の関係性とか色々な問題があると思うんですけれども、単純にお金だけの問題だったら死ぬのはバカバカしいですよ。自己破産したって生きられますから」


 ――自殺する人はまじめで優しいということもおっしゃられていて。

 「たぶん僕がそういう人を想定しているんですよ。まあいろんな人がいるから中にはひどい人もいると思うんですけれども、なんとなく気が弱くて、引きこもり気味の人で、なかなかうまく世間になじめなくて、孤独になってという人を想定している気がしますね」


 ――そして、そういう人こそ社会に必要なんだと。彼等の持っている生きづらさを解決することで社会は良くなるんだから、逆に死んじゃったら、図々しい人だけが残って大変になってしまうとおっしゃっている。

 「それはたぶんね、資本主義社会の中で、勝ち負けとかお金こそすべてというようなことがどんどん増長されると困ると思っているんです。そこになじめず、そこから外れていくすごく過敏な感性を持っている人、そういう人を応援したい気持ちがあるんです。そういう人は優しい人ですから。表現って世界を疑うところから始まると思うんですけど、だから表現の世界にそういう人は多いかもしれないし、表現の世界がそういう人を救う場でもあると思うんです」


ネガティブをポジティブに

 ――そういう中で、世の中、自殺について自分とは関係ないとさめていると書かれている。

 「競争社会の中では単純に負け組として切り捨てられますよ。(『秋田県の憂鬱』を書いた)吉岡尚文さんが言っていましたけど、自殺防止がマスコミで取り上げられるようになったのって、今から10年ぐらい前で、それまでほとんど話題にならなかったそうです。むかしから自殺は結構あったんですけど、最近ですよね、自殺防止が取りあげられたり話題になったりするようになったのは。それまでは自殺って人に言えない、身内に自殺者が出ても人に言えなかったんです。社会にとって、あってはならないものというか」


 ――正しく悼まないし、負け組だからしょうがないんだとか、自分とは関係ないものにしてしまう。

 「そうですね」


 ――そういうことが自分に入ってこられたくない、ということですかね。自殺した人の気持ちとか。自分をそこから防御するみたいな。

 「忌まわしいことなんでしょう。しかし、大企業でもうつの人は増えてきていて、果ては自殺する人も出てきたりして、勝ち組負け組とかいう問題じゃなく、誰もが直面してしまう問題にもなりつつありますね。それだけ仕事が厳しくなってきてるんじゃないですか。自分と関係ないものとして無視しようとしても、無視できない時代になってきているような気もするんですけれども。いつ自分に回ってくるかわからない」


 ――人ごとではないと。

 「そう。勝ち組負け組という境界線があやふやになっている気がするんですよね。一生懸命頑張って努力してきて、富と名誉も手に入れた人でもうつになるし。経済が豊かで、お金が回っていた時にはそういうことが覆い隠されていたんだと思うんですよね。だから、いろんな悩みを持っているけども、お金積まれると薄まるというか、それぐらいの高揚感がお金にはあるんですよね。でもいまお金が回らないですから。アベノミクスとかいっていても、実態は変わったわけではないので。だから、どんどん負の部分が浮き上がってくると思うんですよ。じゃあどうしたらいいかというと、ネガティブなことをポジティブに変えるっていうか、それしかないんじゃないかと思うんです。それまで思い込まされていた価値観を変えるというか、違った見方をするということです」

 「今、吉祥寺の書店『ブックス・ルーエ』を始め、何軒かの書店で『末井昭・選〈生と死にまつわる11冊〉』という『自殺』刊行記念選書フェアというのをやってもらっているんですけど、ネガティブをポジティブに変えるヒントが書かれた本を選んだんですね。難病なのにすごく前向きに生きている人の本とか。そういう本を読むと少しは考えが変わって、ポジティブになれるんですね」

 「あとは表現することもそうです。自分の色々なネガティブなことを、たとえばいじめられていることも、それを表現にしてしまうと客観視できてつらい状態から解放されると思うんですよね。それで人も救えるということがあるし。あとは笑いかもしれない。自分のことを笑えればいいんですよね。あるいは、逃げるというのもあるかもしれないけど。なかなか日本人ってね、逃げるということをしないのかもしれない」


 ――いじめなんかに遭っていたら逃げるというのも手ですよね。ご自身もいじめられた経験を書いていらっしゃいます。

 「でもなかなかね、逃げるってできないんですよ。いじめられる役を引き受けちゃうところがあるんですよね。最初はいじめられ役を引き受けていて、それがどんどん苦しくなっていくという感じはなんとなくわかるんですよ。いじめられることによってそこの集団にかかわれるみたいな。いじめられることよりも自分がそこからはじき出されて一人になることの方が怖いみたいな、そういう感覚もあるかもしれないしね。でも、それで自殺を考えるところまで追い込まれたら、逃げればいいんです。引きこもりになるとかね」


個性なんてなくたっていい

 ――何かネガティブをポジティブにするための方法、それが自分で思い浮かばなかったら、だれか助けてくれる人がいるといいのですが。

 「表現まで行かなくても、自分のことを話したり書いたりすることですよね。それはやっぱり効果があると思うんですよ。ブログでもツイッターでもいいし。それに対して反応があれば、友達ができたことと同じ効果がありますよ。あと月乃光司さんのイベント『こわれ者の祭典』をに行くのもいいかもしれない(笑)。月乃さんのいいところはね、ダメでいいんだというメッセージがバシバシ伝わってくるところなんです。というより、もっと過激に「ダメダメで生きよう!」みたいな(笑)。俺たちダメ人間だってエバっちゃっているわけなんですよ(笑)。ああいうのは結構、窓になりますよね。涙流しながら見ている人もいるしね。まあ自分が特別だっていう風に思うような感じで教育されたり、そういう風に思わないといけないと教育されたりしているけど、人はそんなに大差はないと思った方がいいんじゃないですかねえ。みんな同じぐらい、大差はないんだよという。僕も自分もバカな人間だと思うようになって、好きになる人が増えましたからね」


 ――個性を育てないといけないとか、その裏返しで「世界に一つだけの花」がはやったりしますけれども。

 「そうそうそう。個性なんてなくたっていいんですよ。前ね、僕は雑誌で人生相談をやっていたんですが、やりたいことがわからないって言う人がいたんです。まあそれはそれでいいんじゃないかなと思うんです。みんなやりたいことをやる、それがいいことなんだよって言われるから、じゃあ自分もやりたいことをやろうと思うんだけども、いざ考えてみると何が面白いんだろうって。俺何をやりたいんだろうって悩むんです。でも何をやりたいのかわからないというのが普通だと思うんですね。何かやってるうちに、自分の好きなことがだんだんわかってくるというのが普通なんで。僕なんかもずいぶん回り道したみたいですけど、編集の仕事をやるようになって、やっとこれが好きなんだと思うようになったし。今はまた書くことが楽しくなっているし」

 「個性とかも一緒で、個性的なのがいいよと言われても、同じようにみんな育っているわけだから。まあ母親がダイナマイト心中なんかすれば、それは一つの個性というか、特異な存在になれるのかもしれないけど。みんな平和に穏やかに育っていれば個性なんか育つはずないし、でもそれはそれでいいと思うんです。焦って個性とか、生きがいとか、好きなことを見つけなくても、何かやっていれば、何かこうおりみたいにたまってくるんですよね。ああこういうのが好きなんだなとか。こういうことに生きがいを感じるとか。自分は個性がないと思っていても、人から、おまえはちょっと変わっているよねとか、そこがいいよねとか指摘されて、初めてああそうなのかなと思うこともあるし」


 ――個性とか生きがいとかやりたいこととか強調されすぎで、追いつめられちゃう。

 「そうそうそう。こう言っちゃったら言い過ぎかもしれないけれど、資本主義社会にうまく適合されるように教育されているんですね。文句も言わずせっせと働いてそれなりに能力がある人をつくりだすんです。みんな奴隷になるように。サラリーマンになるということは奴隷になるということだから。そこから社長にでもなれば奴隷から解放されるけど、部長ぐらいまでは奴隷ですよね。だからいい奴隷を作るための教育ですよ」


 ――その中でも自分のことを淡々とやっていたら、澱のように何かがたまってきて、それが自分になっていくという。

 「ええ、そうですね」


 ――だから焦燥感は持たなくていいと。

 「そう、それから教育で教えないのが、心とか魂のことなんですよね。だからそこは半分しか教えてもらっていないような感じがするんですよ。実社会でのノウハウみたいなことは教えてもらっているけど、心とか魂ということは一切教えない。そこを無視というか考えないようにして生きていくとちょっとまずいなと思うんですけれどもね。たとえば、人は人をなぜ殺してはいけないのかという、だいぶ前に神戸の酒鬼薔薇さかきばらの事件があった時に問題になったんですけど、それに対して誰も答えられないと思うんですよ。だって戦争しているしって言われれば、反論できないし」


予防接種みたいな本

 ――じゃあどこで心を育てて、養っていけばいいんですかね。

 「本を読むのは一つですよね。本の中にはあると思う。聖書だって、仏教書だって。それと人を見るとき、表面的なことや先入観ではなくて、その人の魂を見ることですよね。僕はパチンコの仕事をするようになって、そういうのが鍛えられましたね。怖そうな人がいるんですよ、パチプロの人に。あとでその人から、末井さんが隣にいたけど恥ずかしくて声がかけられなかったとか手紙がきたりして。あ、気が弱くて優しい人なんだって」

 ――この『自殺』も?

 「そうですね。読んでもらえれば多少は参考になるんじゃないでしょうか」


 ――どういう人に読んでもらいたいとか希望はありますか?

 「とりあえずは、自殺を迷っている人に読んでもらいたいですね。それと、閉塞感や生きづらさを感じている人ですね」


 ――誰しも予備軍ではあるわけですよね。

 「そのうちね、その人が生きていたくないと思う時がくるかもしれない。こんな世の中ですから。ひょっとしたら。その前の予防薬、予防接種みたいな(笑)、そんな感じで読んで欲しいですね。それと自殺とかあまり意識していない、というより目をそむけている人でも、読めば自殺のことが話しやすくなりますから。と言うと全部の人ということになりますか(笑)」

 
末井昭(すえい・あきら)

 1948年、岡山県生まれ。編集者。エッセイスト。工員、キャバレーの看板書き、イラストレーターなどを経て、75年から編集者に。「ウイークエンドスーパー」「写真時代」「パチンコ必勝ガイド」など、話題の雑誌を次々創刊し、写真家の荒木経惟さんらと一時代を築く。著書に、「芸術は爆発だったりすることもあるのだが、僕の場合、お母さんが爆発だった」という有名な出だしで始まる半生記『素敵なダイナマイトスキャンダル』(復刊ドットコム)『絶対毎日スエイ日記』(アートン)などがある。バンド「ペーソス」でテナーサックスも担当。

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