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夜間中学の授業…みんなで勉強 笑顔あふれ

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 夜間中学には、戦争や貧困などにより義務教育を受けられなかった人たちが通っている。大半は高齢者で、熱心な勉強ぶりから、しばしば「教育の原点」と言われてきた。どんな授業が行われているのか、3人のシニアが体験した。

夜間中学で生徒と一緒に授業を受ける岩田さん(右端)、田辺さん(前列右)。田辺さんの後ろが森田さん(大阪市生野区で)

 元化学メーカー社員の岩田晋さん(69)(堺市南区)、絵手紙講師の田辺憲子さん(61)(大阪府東大阪市)、高齢者施設でソーシャルワーカーを務める森田初枝さん(56)(同府茨木市)。

 3人が訪れたのは、大阪市生野区の市立東生野中学校夜間学級。6クラスで141人(うち男性11人)が、午後5時30分から毎日4コマ(1コマ40分)の授業を受けている。平均年齢は67歳で、80歳以上が12人。在日韓国・朝鮮人が多い地域だけに、韓国籍の人が全体の9割近くを占め、朝鮮籍、中国籍などの人もいる。

 小西智人教頭から説明を聞いた後、3人はE組の教室へ。約20人の生徒に迎えられ、空いた席に座った。

 1時間目は国語。永井経子(みちこ)先生は、「さすが妻 投げたコップは 安い方」「立ち上がり 用事忘れて また座る」などの川柳を記したプリントを配り、「これは夫婦げんかを題材にした作品ですね」「似た体験をしたことがありますか」などと問いかけた。

 生徒が「冷蔵庫を開けたままにした」「かけている眼鏡を探してしまった」などと次々に述べると、あちこちから笑い声が上がった。

 続いて漢字。「禁」と「句」の読みと書き順を確認し、これを使った熟語の読み書きをみっちり練習した。

 次の理科では、小寺顕浩先生が自ら撮影した野鳥の写真を大型画面で見せながら、カモ類の生態や分類を分かりやすく説明した。

 休憩の20分間を使って、岩田さんら3人は生徒の前で授業の感想を発表。生徒からは「会話ができても字の読み書きができないと不安だった」「若い頃は仕事に追われ、この年になって初めて鉛筆を握ると手が震えた」「こうして皆と勉強できるのがうれしい」などの発言があり、和やかなムードが広がった。(石塚直人)

検定教科書ではなく自主教材

 公立の夜間中学は、全国で35校(うち近畿18校、大阪府11校)。各校とも当事者と支援者による識字教室などの運営グループが設置を求め、地元教育委員会が応じた。必要があっても増えない背景には、文部科学省が成人教育を公民館など社会教育機関の仕事と位置づけ、支援を拒んできたことがある。

 山田洋次監督の映画「学校」(1993年)で、その存在が広く知られるようになった。授業は国語を中心に、音楽や美術、体育なども含む9教科。検定教科書では難し過ぎるため、教材は先生たちの手作りだ。修学旅行や文化祭などの行事も行われ、卒業後に高校に進む人もいる。

 東生野中夜間学級は97年に開設。校門前には生徒のつづった短い作文が貼り出され、これに感動した社会学者・金益見(キムイッキョン)さんは著書「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」(文芸春秋)で、勉強を通し成長する生徒の姿を紹介している。

 岩田さん「生徒さんの一人が、先生に直してもらった作文を何枚も見せてくれました。長い間のつらさに耐え、楽しんで学ぶ姿に頭が下がります」

 田辺さん「こんな楽しい授業は初めて。2年間一日も休んでいないという方と話をし、先生方が授業法を工夫していることにも感銘を受けました」

 森田さん「授業中、笑い声が絶えず、明るいのに驚いた。私自身が励まされました」

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