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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

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「がん放置」は本当に楽なのか?

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 がんは治療しなければ本当に楽なのでしょうか?

 そんなことはありません。

 がんは組織を傷害しますから、普通に痛みが出ます。抗がん剤が効いてがんが小さくなればそれで痛みが軽くなることが多く認められます。例えば、進行胃がんの比較試験において抗がん剤を使用したほうが「症状がない時間が長い」「症状が改善した」というエビデンス(科学的根拠)もあります(Glimelius ら=1997年)。

 近藤誠さんの『医者に殺されない47の心得』(アスコム)から引用し、緩和医療の一専門家として、症状緩和にまつわる記載についてみてみましょう。


モルヒネ・放射線治療にも限界

 「放置すれば痛まないがんは、胃がん、食道がん、肝臓がん、子宮がんなど少なくありません。もし痛んでも、モルヒネで完璧にコントロールできます」(p83)


 これは間違いです。

 肝臓がんは肝被膜という肝臓の外側の膜まで腫瘍が進展しないとしばしば痛みを感じないのですが、胃がんや食道がん、子宮がんは放置すると痛みます。私はいずれのがんの放置例も診たことがありますが、患者さんは痛みを訴えておられました。組織をがんが傷つけるのですから当然です。

 間違いはもう1つあります。

 「モルヒネで完璧にコントロールできます」と書いてありますが、そんな安請け合いはできません。

 モルヒネなどの医療用麻薬は、基本的に内臓の痛みにはよく効きますが、胃がんが進行してお なかの神経が集まっている所( 腹腔ふくくう神経そう)を侵したり、あるいは子宮がんが進行して骨盤の中の神経が集まっている所(骨盤内神経叢)を侵したりすると「神経の痛み」が出ます。これはモルヒネで完璧にコントロールすることは、しばしば困難です。以前の連載で述べた通りです。

 他にも気になる記載があります。

 「骨転移で痛む場所が1か所の場合は、放射線治療で劇的に痛みを軽くすることができます」(p91)


 これもがんによって効く可能性が異なると言われており、前立腺がんや乳がんでは80%以上ですが、肺がんでは60%、腎臓がんでは48%程度とされています(緩和ケア継続教育プログラムより)。

 効く場合でも、全てが著効するわけではありません。劇的に痛みが軽くなる場合もあるが、そうではない場合もあるということです。鎮痛薬が要らなくなるのは30~50%程度(同上)とされており、放射線治療をしても鎮痛薬の継続が必要になることは少なくありません。


苦痛は必ず出現、緩和医療の併用を

 放置しても大丈夫だよと伝えたいがゆえに、これらのオーバーな表現が散見されるのですが、中でも顕著なのは「がんで苦しみ抜いて死ななければならないのは、がんのせいではなく、『がんの治療のせい』」(p14)という説です。抗がん剤で症状緩和がされる場合もあることは先に述べました。それでは、がんに対する治療を全くしなかった場合はどうでしょうか? 本当に苦痛はないのでしょうか?

 私は最初から最後まで一切、がんに対する治療をしなかった方も診療した経験がありますが、それでも痛みが出ますし、余命が数日ともなれば「身の置き所のなさ」が出ました。

 放置療法を選択されていた患者さんのご家族から相談が来たことがありますが、余命数日の「身の置き所のなさ」が出ていたにもかかわらず、何の指示も出ていないようでした。苦しかったようです。これが放置することの実態です。「鎮静」が必要な状態だったと判断されました。

 緩和医療はモルヒネばかりではなく他の医療用麻薬や鎮痛薬を使いこなし、また鎮静も扱って患者さんが最初から最後まで苦痛がないように努めます。本当の放置、あるいはモルヒネと放射線療法が中心で経過観察、というのは苦痛緩和に不十分で、標準的なレベルの緩和医療ではありません。

 がんを放置しようがしまいが、がんそのものによる苦痛は必ず出現します。苦痛は痛みばかりではありませんし、死期が迫れば相応の苦しさが出ます。だからこそ、本当のがんの専門家はきちんと緩和医療医と協働し、苦痛緩和の専門家である同医師のもとできめ細やかに最新の緩和医療を併用し、どんな場合においても最高の苦痛緩和ができるように努めるものなのです。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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