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いきいき快適生活

介護・シニア

認知症ケアへ社会参加

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楽しく仕事 良い影響

「DAYS BLG!」の松田さん(右)と配達する野菜を積み込む男性。てきぱきと働く(東京都町田市で)

 認知症高齢者のケアに、社会参加の仕組みを取り入れた活動が注目されている。「できること」を楽しんでもらうことが、本人の心と体に良い影響を与えている。

 東京都町田市に住む認知症の男性(72)は、デイサービス「DAYS BLG!」(同市)に通っている。一番の楽しみは、施設の外での「仕事」だ。毎週月曜午後の約3時間、職員の松田聖章さんが運転するワゴン車に乗り込み、近所の青果問屋「野菜・果物のツトム」の配達を手伝う。

 配達先は、地域の学校や保育園など。注文伝票を確認し、配達順を考えてワゴン車に野菜の段ボール箱を積み込んでいく。男性は要介護3。物忘れや、うまく言葉が出ずにイライラしてしまうなど生活上の困難も抱えているが、仕事中は集中力が高まる。箱を抱えて歩く体力は十分あり、道順も頭に入っている。

 男性は石油会社の営業マンだった。松田さんが配達先を開拓する営業活動で苦戦していると、「一人で行動しても落ち込むだけだよ」と、同行してくれたこともある。「営業の先輩として、心強いです」と松田さん。

 ユニークなのは、青果問屋から報酬が支払われている点。月額2000~3000円程度とわずかだが、「自分も社会の一員なんだという実感がわく」と男性は話す。

 厚生労働省は、都道府県が定める最低賃金を超えなければ、介護サービス事業所の活動で本人がボランティア報酬を受け取ることは差し支えないとしている。

 DAYSでは、このほかに提携した製薬会社の洗車なども請け負う。運営するNPO法人「町田市つながりの(かい)」理事長の前田隆行さんは「認知症であっても、社会参加は可能。介護サービスを受けるだけではなく、自らの意思で働き、報酬を得るのは自然なことです」と力を込める。

 地域との関わりを重視した取り組みで、認知症高齢者が能力を発揮しているケースもある。神奈川県藤沢市の小規模多機能型居宅介護「おたがいさん」。施設の玄関に駄菓子屋コーナーがあり、近所の小学生たちが買いに来る。

 店番は、その場に居合わせた利用者のお年寄りが務める。夕方に訪れた小学4年生の男児(10)は「老人ホームみたいな所だって知ってるけど、お釣りもちゃんとくれるし、普通のお店だよ」と話す。

 施設の中では、3人のお年寄りがビーズのブローチ作りに精を出していた。83歳の女性は「仕事が忙しくて大変」と笑う。「商品」は敷地内で開くお祭りで売る予定だ。もちろん、収益は利用者のもの。ファミリーレストランに出かけてチョコパフェを食べたりするのに使うという。

 運営する「あおいけあ」社長の加藤忠相さんは「利用者からスタッフたちが教わるような関係。できることを伸ばしていくと、結果的に健康状態も良くなる」と話す。

 淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博さんは「社会参加に着目したこのような取り組みで、要介護度が改善されるケースも出てきている。しかし、人手不足の事業所では、そこまで手が回らないのが現状。職員の人員配置を手厚くするなど国のバックアップ策も必要だ」と指摘する。

「できること」を家庭でも…押しつけず 敬意を払い

 「社会参加」とまではいかなくとも、本人が「できること」を重視した認知症ケアは、家庭でも取り組める。

 認知症の人と家族の会東京都支部代表の大野教子さんには99歳の義母がいる。

 洗濯物を取り込んだ時のことだ。義母は靴下を同じ種類にまとめることはできなかった。ところが、ブラウスを渡すと手際よくたたんでくれた。「すごくきれい。ありがとう」と話しかけると、自信に満ちた笑顔に。「私たちは先に手を回してしまいがち。しかし、本人ができることは、かなり残されているのです」

 本人に満足感や自尊心が湧けば、生活に張りが生まれ前向きになれる。例えば、「目玉焼きを作って」と一言で済まさずに、「卵は冷蔵庫だっけ?」「フライパンはあそこね」などと順を追って促していくと作れる場合もある。

 大野さんは「興味がありそうなことを見つけ、押しつけずに、さりげなくサポートしましょう」と話す。

 こうした関わり方をする上で、認知症高齢者を対等な人として尊重する「パーソン・センタード・ケア」(その人を中心としたケア)と呼ばれる考え方が参考になる。

 NPO法人「その人を中心とした認知症ケアを考える会」理事の村田康子さんは「どんな行動にも、本人の意思や気持ちがあるととらえ、様々な角度で考えてみることが大切」と話す。言葉やしぐさに注意を払い、その人の視点に立ってみると、対応のヒントにつながることも多い=表=。

 こんな事例がある。デイサービスを利用している人が、散歩中に公園の花を摘んで施設の職員に渡した。その話を聞いた家族が、自宅の草花を用意したところ、満足そうに職員に届けるようになった。

 「公園の花を摘む」行為だけを見れば問題と思えても、そこには「花を届けて喜んでもらいたい」という本人の気持ちがある。「できること」を日常生活にいかしていく支援が重要だ。村田さんは「介護サービスをうまく利用し、地域の手も借りてチームでケアにあたりましょう」と話す。(赤池泰斗)

 

パーソン・センタード・ケアの考え方

 ・その人を尊重し、価値を認め、敬意をもって接する

 ・独自性や個性を持つ人として、相手に関わる

 ・支援しようとする時、その人の視点に立とうと試みる

 ・その人が信頼して周囲と関わり、孤独でないと感じるのに、自分の行動が役立っているか考える

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