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医療部発

コラム

連載「揺れる命 世界は今」、出生前診断の現状を取材

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 10月30日から11月6日まで、6回にわたり、読売新聞の1面、社会面で出生前診断に関する連載「揺れる命 世界は今」を掲載しました。妊婦の採血だけで、ダウン症など3種類の染色体疾患が高い精度でわかる新型出生前検査が、今年の4月から国内の一部の施設で臨床研究として実施されています。これを受け、出生前診断の世界各国の状況を連載したものです。高倉正樹編集委員と加納昭彦記者が欧米各国に出張し、世界の出生前診断の現状を取材してきました。

 取材で浮き彫りになったのは、(1)同じ技術が世界中に広まっても、その受け止め方は国によって違う(2)出生前診断の結果を受けてどうするかは、個々のカップルの判断のように思われがちですが、それぞれのカップルが住む社会のハンデのある人たちの置かれた状況に左右される――ということでした。

 アメリカは、宗教上の理由などから人工妊娠中絶を巡る激しい論争が歴史的に繰り返され、中絶専門クリニックを襲撃する事件も起きているようなお国柄ですが、その結果次第で中絶につながる可能性がある出生前診断には目立った反対論は聞かれません。

米国、目立った反対論が聞かれない理由

 それはなぜなのか。取材でわかってきたことは、日本ではあまり意識されませんが、「出生前診断で胎児の状態をあらかじめ知ること」と「その結果を受けて中絶するかどうかを考えること」は別の問題と考えられているということです。

 人工妊娠中絶に反対する民間団体「Americans United For Life」は、アメリカの各州の州議員に働きかけて、胎児の性別や先天的な異常を理由にした中絶を禁止する州法を制定する活動を続けていますが、「検査の結果、中絶が唯一の選択肢のように提示されることが問題なのであって、検査自体は否定も肯定もしない」と答えています。

 この問題に詳しいカリフォルニア大ヘイスティングス法科大学院のジェイミー・キング教授は「アメリカには、情報へのアクセスは重要な権利であり、それを国家は侵害できない、という思想がある。アメリカの医師が『こんな情報は知らなくてもいいだろう』と言うのは大変難しいだろう。患者や妊婦こそが、その情報を手に入れる権利を持っていると考えるから。そもそも極めて個人的な情報なのだから」と話しています。

 出生前診断の対象に挙げられている、全米ダウン症協会のサラ・ワイヤー副代表も「アメリカでは、科学技術の革新に対して『反対する』ことは困難を伴います。医療技術は日進月歩で目まぐるしく変わっていく。私たちは市場に進出してくる技術を止めることはできない」とインタビューに答えています。

中絶がどんどん進んでしまうのか

 では、出生前診断がどんどん広まって、中絶がどんどん進んでいくかといえば、そうとも限らないようです。アメリカ国内でも地域によって違うようですが、ダウン症のある子どもたちが、ハンデのない子どもたちと一緒に学び、成長して社会の中で働くようになり、社会の見る目が少しずつ変わりつつあるそうです。アメリカのダウン症協会の人たちは、pro-life(中絶反対)でもpro-choice(中絶容認)でもなく、pro-information、ダウン症のある人たちの社会での生活ぶりを知ってもらうことで、出生前診断後の選択を考えてもらおうと考えているようです。これらの反応は、どれもとてもアメリカらしいと思っています。

 イギリス、ドイツはアメリカとはまったく違う反応を示しています。記事で詳報していますので、ご一読ください。

 生命の始まりの時点で行われる出生前診断ですが、生殖医療という小さな枠組みの中で語られることではなく、その国の社会のありようが大きく影響する問題なのだと思います。とても興味深い取材でしたので、ぜひ、記事を読まれた方のご感想をお待ちしております。

館林牧子
2004年から医療部。子供や女性の病気を主に担当。4歳の双子の母。趣味は食べること。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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