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[揺れる命]世界は今(4)検査対象 議論なく拡大

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欧州 胎児の生きる権利 裁判に

スーパーで両親と買い物をするターナー症候群のブルックさん(中央)。「ターナーは私の個性の一つというだけ。全てじゃないわ」(米テキサス州ヒューストン郊外で)=高倉正樹撮影

 米テキサス州ヒューストン。郊外のスーパーで、ブルック・カジンスキさん(16)が両親と買い物をしていた。科学や数学が得意で、幼稚園の先生を夢見る女子高生だ。「車の免許が取れる年齢になったから、運転の練習をしているの。最初は難しかったけど、だいぶ慣れたわ」とうれしそうに話した。

 ブルックさんはターナー症候群。女性の約2500人に1人にみられ、低身長や不妊などのある性染色体異常の一つだ。知的障害はない場合が多く、判事や医師の仕事に就く人もいる。

 最近、一家は気になるニュースを聞いた。新型出生前診断で、この疾患を見つけられるようになったという。だが、患者団体の全米ターナー症候群協会は「検査結果を受けて中絶するかは個人の判断」と賛否を明らかにしていない。

 ある検査会社は今後、染色体のわずかな欠損や、単一遺伝子の変異から起きる病気まで検査対象に広げる計画を表明している。病気の軽重は様々だが、どの病気を対象にするかといった議論は見当たらない。

 ブルックさんの母、シンディさん(42)は漠然とした不安を感じる。

 「妊婦は完璧な赤ちゃんを望む。そして検査で見つかる『異常』はどんどん増える。あまり深く考えないまま、米国人はそれを受け入れてしまっている」

 そもそも、出生前診断を受けることは女性の権利なのか。胎児の「生きる権利」と矛盾しないのか――。欧州では、医療技術が生み出した倫理的な問いに向き合おうとする動きがある。

 きっかけは、ラトビアの女性が欧州人権裁判所に起こした裁判だった。ダウン症の女児を出産したのは、医師が出生前診断を勧めなかったからだとして「適切な検査を受ける権利を侵害された」と訴えた。

 これに対し、昨年、欧州各国の26のダウン症協会や障害者団体、人権団体が女性の訴えへの反対意見書を裁判所に提出。国を越えて初めて出生前診断反対の立場が鮮明にされた。参加した仏の人権団体のグレゴリー・パピンク氏はいう。「病気のある胎児は生まれる価値がないというのが原告の女性の主張。見過ごすことはできない」

 新型検査のように妊婦の血液中にある胎児のDNAを分析する技術は、様々に応用され、身近になりつつある。

 米カリフォルニア州の検査会社は胎児の性別鑑定キットを販売している。インターネットで誰でも購入でき、同封の小さな針を使い、妊婦が自分で血液を採って郵送する。費用は169ドル~329ドル(1万6000円~3万2000円)。妊娠9週以降、95%の確率で性別が分かるという。

 会社の常駐スタッフはわずか4人。社屋は車庫のような平屋建ての一角だが、創立者の一人、チン・バックさん(66)は「分析機器は最新のもの」と話す。

 日本でも、超音波検査の性能が向上し、妊娠20週ごろには男女が分かることが多い。望めば妊婦に性別を教える医師もいる。しかし、鑑定キットは医師の説明もカウンセリングも不要だ。専門家からは「性別を理由にした中絶につながりかねない」との批判も出ている。

 しかし、バックさんは「事前に性別がわかれば親子の絆が深まるし、楽しいでしょ」と意に介さない。「ニーズがある限り、世界中の消費者に我々の技術を届けられる」

 バックさんがパソコンで顧客データを見せてくれた。3月は8人。4月12人、5月10人、6月12人……。日本からの注文数だった。(この記事は2013年11月3日に読売新聞朝刊に掲載されました)

 
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