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[揺れる命]世界は今(2)独、優生思想を懸念
ナチスの反省 生殖医療 国挙げ論議
「私に育てることができるだろうか」
ドイツ・ミュンヘンに住むダニエラ・アウアーバッハさん(41)は、2011年7月、大きなおなかを抱えて近くの「妊娠葛藤相談所」を訪ねた。
おなかの赤ちゃんが、ダウン症と診断された。産むつもりだったが、結果に心が揺れた。仕事を続けられなくなり、生活が一変するかもしれないと思った。
相談所は、妊娠や出生前診断の結果に悩む人の相談を聞く。教会や女性団体などが各地で運営している。
「どの選択がよい、と決めつけることはしません。何でも話してみて」。心理カウンセラーの女性はダニエラさんに語りかけ、ある家族を紹介した。ダウン症の長男(8)を育てる家庭で、産科医の母親は仕事を続けており、「大変なこともあるけど、働けるわ」とほほ笑んだ。
ダニエラさんは出産を選んだ。長男、ティム君は11月、2歳になる。成長はゆっくりだが、ハイハイも上手にできる。「誰かに聞いてほしかった。相談所に助けられた」と振り返る。
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かつてのナチス政権下で、障害のある人への不妊手術の強制や安楽死などが行われたドイツでは、その反省から優生思想への懸念が根強く、生殖医療を巡っても慎重派と容認派のせめぎ合いが繰り返されてきた。
安易な人工妊娠中絶を防ぐため、母子が健康にもかかわらず、中絶をする場合には、3日前までに妊娠葛藤相談所でカウンセリングを受けることが法律で義務付けられている。
妊婦のおなかに針を刺して胎児の障害の有無を調べる羊水検査は1970年に始まったが、当時、中絶は例外を除き法律で禁じられていた。76年に胎児の障害を理由にした中絶を認める法改正があったが、国を挙げた議論の末、95年にその条項は削除された。だが、実際は法律の拡大解釈で、羊水検査で陽性だった女性の9割は中絶している。
着床前診断は、90年に禁止された。受精した瞬間から生命が始まるとの考えからだ。だが世界で医療として定着する中、患者の要望を受けて診断を実施した医師が検察に自らを告発し、その是非を社会に問うたことがきっかけで、2011年、ようやく禁止が解除された。
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そのドイツに、新型出生前診断が導入されたのは昨年8月。同国内の検査会社が米国の企業と技術提携し、ドイツ、スイス、オーストリアの遺伝カウンセリングができる医療機関に提供を始めた。
だが、やはり導入前から論議を呼んだ。同年7月、カトリック関連団体が「中絶反対」などと訴え、検査会社前でデモ行進。与党・キリスト教民主同盟の国会議員も「ダウン症の排除が進む」と懸念を表明した。
医師や倫理学者、法学者などでつくる政府の「ドイツ倫理審議会」は今年4月、検査後、障害のある子を産むと決めた家族には、負担の軽減が必要だなどとする見解を発表。すでに行われている新型検査の運用方針が公的に示されたが、反対意見もいまだ根強い。
日本では、「不良な子孫の出生を防止する」との条項があった優生保護法が1996年に現在の母体保護法に改正されてから、胎児の障害を理由にした中絶は法律上、認められていない。だが現実には、倫理的、法的な議論をされることもなく、中絶は行われている。
出生前診断に詳しい千代
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〈着床前診断〉 |
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