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体の声を聴く

からだコラム

[体の声を聴く]いかに患者を理解するか

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 英国の心身医学者、マイクル・バリント(1896~1970)は、高名な内科の開業医で、精神分析の大家でした。

 「患者にどのような心理療法をなさっているのですか?」との質問に対し、彼は「私は心理療法などしていませんよ。私がしているのはunderstanding(患者理解)だけ。いかに相手を理解するかです」と答えています。彼は「患者の言うことに心から耳を傾ける」「人生の問題が自然に出てくるような診察のやり方」がその秘訣(ひけつ)、と述べています。

 これまで登場した患者のAさんからGさんまで、理解のための大切な言葉は、いずれも診察の合間に語られています。丁寧な診察は診断に必要なだけでなく、患者と医師の垣根を取り除くスキンシップの機会であり、医師に対する信頼感を深めます。タイミングを見計らって、家族関係、仕事上の悩み、不安などを聞き出すことも容易になります。初診は、患者理解という「医療の土台」が作られる過程でもあるのです。

 米国の大学病院で、不安の強くなった若い女性患者が外科病棟に入院していました。明日が手術日。主治医や麻酔科医が、いかに安全な手術か、不安を取り除こうと熱心に説明して励ましたのですが、不安は強くなるばかりです。

 そこへ、外科の老教授がやってきました。ベッドの傍らに腰をかけ、彼女の手を握りながら言いました。「明日の手術、不安でしょう」。彼女は教授の手を握り締め、涙を流し続けたのです。教授は彼女の肩に手をかけて優しく、「手術が終わった後、またここでお会いしましょうね」。彼女は何度もうなずき、微笑(ほほえ)みました。

 教授は長い経験から、患者心理を理解していたのですね。(清仁会 洛西ニュータウン病院名誉院長・心療内科部長 中井吉英)

 

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