文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

yomiDr.記事アーカイブ

「緩和ケア」の正しい探し方

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 まず最近は大きな病院には必ず「緩和ケアチーム」等が設置されるようになっています。緩和ケア外来も提供されています。

 身体の苦痛を始め対処してほしい問題がある際は、外来通院の場合は、主治医の先生にお願いして、緩和ケア外来にかかるのを求めるべきです。もちろん主治医の先生が対応してくれて苦痛が緩和されるならばそれに越したことはありません。つらいことはつらいとはっきり伝えましょう。しかし正直に苦痛を伝えて薬剤等で対応してもらってもなかなかつらさが取れないようならば、やはり緩和ケア外来にかかりたいと申し出るべきでしょう。その際、「主治医の先生が一生懸命やってくれているのに悪いな」とか「気分を害さないかな」と心配される方がいますが、苦痛を取り除いてもらうことは当然のことなので遠慮をする必要はありません。主治医の先生も基本的な苦痛緩和の技術を持っている場合もありますが、やはり餅は餅屋、苦痛緩和の専門家ならではの知識と技術、経験がありますから、最良の苦痛緩和医療を受けるべく、このチームを利用しない手はないと思います。

 ただその時に、前回の記事のように、緩和ケアの旧来の理解に基づいて、主治医の先生方に「必要ない」等と断られる可能性があることはむしろ想定しておいたほうが良いでしょう。私の知っている事例では、私の勤務している病院ではありませんが、「うちの緩和ケアは弱いから」と言われたという笑えない話があります。何が弱いのかわかりませんが、まだその分野での到達度が低いということだったのかもしれません。ただ現状では「かからなくていい」というような言葉が出て来るのはむしろ織り込んで、熱意をもってお願いするべきです。もちろん世の中大半の緩和ケアの認識が変わってくれれば二つ返事で緩和ケア外来に依頼が出るはずですが、残念ながら現状はそうなっていません。忸怩じくじたる思いを感じるところではあると思いますが、「今」苦しんでいる方々が救われるためには、文句ばかり言っていても始まりません。当然医療者がこのような依頼を断らないようになることは大切ですが、患者の苦痛をとにかく何とかしてほしいのだというご自身やご家族の強い希望も非常に重要です。

 さてそうやってそこを何とかと(緩和ケアの外来にかかるのを)お願いすれば院内にそれがある場合は紹介してくれる、という医師も少なくはないでしょう。紹介してもらえばしめたものです。緩和ケア外来で現状の困っていることを存分に相談しましょう。けれども最近緩和ケア外来に過大な期待を抱いてやって来られる患者さんもいます。私たちにも緩和できるものもあればそうではないものもあります。それでも話を聴いてもらえるだけでも気持ちが楽になったとおっしゃる方もいます。


 さて、問題なのは(1)その病院に一切そういう組織がない場合と、(2)絶対に紹介しないと医師に言われてしまった場合です。

 (1)の場合は、近くのホスピス・緩和ケア病棟を探します。なぜならばこれらは緩和ケア外来を併設していることもあるからです。中には入院予約のための外来しかしていない場合もありますが、症状緩和のための外来を他院にかかっていても引き受けてくれる施設もあります。近隣のホスピス・緩和ケア病棟については今かかっていらっしゃる病院のソーシャルワーカーなどが在籍している相談部門(地域医療連携室などの名前が付いています)で聞くこともできますし、日本ホスピス緩和ケア協会ホームページの正会員病院一覧( なおホームページの下のほうには在宅緩和ケアが可能な診療所も掲載されています)でお近くのそれらを自分で探すという方法もあります。いずれも自ら連絡をして、他院にかかっているけれども症状緩和のための緩和ケア外来を受診できるかどうかを聞かねばなりません。また可能ならば、皆さん自身にとっては益がないかもしれませんが、後に続く方のために、今かかっていらっしゃる(緩和ケアチームがない)病院の総合相談などの相談部門に、早急に病院全体として取り組んでもらって緩和ケアチームなどの組織を作るように要請すべきです。

 さて(2)の場合です。(2)の場合も基本的な対処は(1)と同じです。私の知っている例では、緩和ケア外来にかかりたいと言ったら「死ぬ気ですか?」と本気とも冗談ともつかない言葉を真顔で言われたという患者さんもいます。以前も触れたように、その先生にとっては緩和ケア=終末期そのもの、なんでしょうね。私はそれでもかかりたいと粘って良いと思いますが、どうしてもかからせないというようなことがあれば、やはり近隣の緩和ケアが可能な病院をページの表で探すしかないでしょう。

 以上が、まだ治るがん、あるいは治療中のがんの場合の緩和ケアのかかり方です。より詳しい方法は拙著『どんな病気でも後悔しない死に方』に述べましたのでご参照ください。 

 なお最後に水を差すようで申し訳ありませんが、緩和ケアの担い手は多くありません。全員が全員、診断されたがんの患者さんを緩和ケアチームがもし診療したら、現実にはチームはたちゆかなくなってしまいます。緩和ケアの担い手が今後も莫大ばくだいに増えるとは考えにくく、だからこそ基本的な症状緩和にはがん治療医の先生方にも習熟して頂く必要がありますし、また緩和ケアチームも患者さんの困っている内容や困窮度に応じて強弱をつける必要があります。その点はご承知おき頂ければ幸いです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話の一覧を見る

最新記事