文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

体の声を聴く

からだコラム

[体の声を聴く]心理を理解して禁酒指導

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 私の研究テーマは「慢性膵炎(すいえん)の心身医学的研究」でしたので、多くの慢性膵炎患者を診てきました。この病気になる最も多い原因が、アルコールです。

 40歳代のFさんは、建設会社の現場責任者。25年間、毎日1升の日本酒と1日おきにウイスキーボトル1本を飲んできました。でもアルコール依存ではありません。入社以来、無遅刻無欠勤。早朝真っ先に現場へ行き、全員がいなくなるのを見届け帰宅する。真面目で責任感の強い模範社員です。

 どうして大量のお酒を飲まなければならなかったのでしょうか。

 Fさんは物心ついた時から両親の顔を知らず、育ての親のもとで厳しく育てられました。実母とのスキンシップと心の触れ合いがなく、親に甘えたい気持ち(依存欲求)や親から離れてしまう不安(分離不安)を幼いころから抑え込み、周囲からの愛情を得るために際限ない努力をしてきました。その結果、周囲へ過剰に適応せざるを得ない性格や行動パターンが作られたのです。

 彼にとっての飲酒とは、毎日の緊張とストレスを解消するためだけの手段ではなかった。大量のアルコールによってしか、母親の懐に抱かれるような心のくつろぎが得られなかったのです。

 Fさんの心療内科での治療は、こうした飲酒の心理を理解し、温かい治療関係を築いた上で禁酒を指導しました。禁酒だけを強いると不眠症やうつ状態に陥ったり、腹痛が悪化して鎮痛剤や麻薬に依存したりする可能性があります。

 そのため食事指導や薬物療法とともに、飲酒に代わるリラクセーション法とストレス対処法が身につくよう治療し、禁酒に成功。膵炎の進行をくい止めることに成功したのです。(清仁会 洛西ニュータウン病院名誉院長・心療内科部長 中井吉英)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

karada_400b

 
 

からだコラムの一覧を見る

体の声を聴く

最新記事