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宋美玄のママライフ実況中継

コラム

命の選別…出生前検査を巡る葛藤

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カボチャおばけの仮装で道行く人に大人気の娘

 11月に入り、娘は1歳10か月になりました。話せる言葉が増えて、コミュニケーションがちょっとずつ取れるようになって楽しいです。「おうまはみんなパッパカ走る」と歌がかかると、誰に教えられたのか私の背中に乗って来ておうまさんごっこを始めたり、お風呂上がりに私のパジャマのズボンを持って来てはかせてくれたり、成長著しいです。自分にされることを親にもしたいみたいで、歯ブラシを口につっこんできたり、シャワーをかけたりして、とてもかわいいです。

 先日、「せいなるよるのたからもの」(クドウあや著、新教出版社)という絵本を献本いただきました。「安心」のため出生前検査を受けたところ赤ちゃんのダウン症候群と思われる「障害」が分かって、葛藤の上、出産するというお話で、子どもにはちょっと難しいかも知れませんが、感動的な内容の絵本です。添えられていたお手紙には、出生前検査が広がりを見せつつあることについて危惧されている旨が書かれていました。私の日々の診療は、一般妊婦健診を含めて胎児検査に関わるウェイトが大きいのですが、ダウン症やそれ以外の先天性疾患の方やご家族が昨今の出生前検査にまつわる報道を様々な思いで見ておられるだろうと想像しています。中には、そういった検査があるということ自体が自分を否定された気持ちがするという意見もきいたことがありますし、気持ちは想像できます。

 出生前検査自体は先天性疾患の方の存在を否定するものではもちろんありませんし、その検査に関わっている者がそのような考えを持っているわけでは当然ありません(私自身の出生前診断と人工妊娠中絶に関する答えの出ない考えについては過去に何度か書いた通りです)。

 私がイギリスに留学までしてこの分野を専門の一つに選んだのは、昔からそのことについて考える機会が多かったからです。出身中学・高校であるミッションスクールでは「すでにおられる障害者の方が傷つくことになるから命の選別はいけないこと」と習いましたが、その後「健康でないなら生まれてこない方が幸せ」という若さ故の傲慢な意見を持った友人たちにも出会い、考えが振れ続けました。その後、産婦人科医になり、実際に臨床の現場でさまざまな立場の人と触れ、真剣に葛藤する姿に接しました。以前は慎重さを重視し、出生前検査の情報自体を発信することを控えていたのですが、出生前検査に対する誤った情報に振り回される妊婦さんと家族があまりに多いので、臨床で患者さんに接する傍らこのような場で情報を提供するようになりました。

 実際に出生前検査を受けて重い病気と診断された両親のうち、人工妊娠中絶を選ぶ割合は9割に上るとの施設もあり、出生前検査をすること、情報提供をすることが命の選別につながるのは事実だと認識しています。出生前検査が進歩して行くのは需要と探究心のためだと思うので誰にも止められません。しかし、検査があることで「病気の子どもを産むのは自己責任」というような極論がまかり通らないようにしなくてはならないということと、病気の子どもを持った親と子ども本人の不自由や負担を少しでも軽くし、産むという選択をしやすくしなければいけないと思います。

 選択肢があることが必ずしも幸福とは限らないのは出生前検査に限ったことではありませんが、少しでもこれから親になる方たちの力になれるよう邁進まいしんしていきたいと思っています。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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8件 のコメント

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社会福祉の専門家も・・・。

あっこ

この問題は、いまの社会が障害を持つ子どもたちが育ち、社会に出ることが難しい環境だからおきるのであって、障害をもっても育ち生きることが心配ない社会...

この問題は、いまの社会が障害を持つ子どもたちが育ち、社会に出ることが難しい環境だからおきるのであって、障害をもっても育ち生きることが心配ない社会だったらこのような騒ぎにならないと思います。もっと社会福祉の専門家の先生もこの問題に入り込んできていただいていいのではないでしょうか?

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いつからが「生」なのか

ポップコーン

本当に、胎児はいつから「生きている」のでしょうか?お腹から出て来た瞬間に「生きる」もの?それとも、卵子と精子が出会って細胞分裂しはじめたら「生き...

本当に、胎児はいつから「生きている」のでしょうか?

お腹から出て来た瞬間に「生きる」もの?

それとも、

卵子と精子が出会って細胞分裂しはじめたら「生きる」ものなの?

その基盤がしっかりしていない限り、この議論は永遠に続きますよね。

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すでに障害者として生まれた者に選択肢は

めざめたじいさん

「色んな考えの方がいて、色んな選択肢があり、どの道を選ぶのも自由、という訳にはいかないのでしょうか?一つの考えを押し付け合わないといけないのでし...

「色んな考えの方がいて、色んな選択肢があり、どの道を選ぶのも自由、という訳にはいかないのでしょうか?一つの考えを押し付け合わないといけないのでしょうか?」

いろんな選択肢がない人がすでにいることなのです。

決して押しつけではなく、現実に障害者として生きている人を支援しましょうと言うことなのです。

人の命を、神以外の者が自由・自由に選択するのは、何としても受け入れがたいことです。

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