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国民皆保険・皆年金(18)現在の医療保険制度

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 日本の社会保障制度の特徴である「国民皆保険・皆年金」制度が実現して、50年以上がたちました。現在、社会保障制度は「揺らいでいる」「綻びが目立つ」などとよく言われます。社会保障制度の現在の問題点について触れる前に、医療と年金、各保険制度の現在の形(体系)について、簡単にご紹介しておきたいと思います。今回は、医療保険制度についてご説明します。

 これまでのコラムで、国民皆保険は、勤め人向けの被用者保険に加入できない人すべてを受け入れる国民健康保険制度が創設されたことで、達成できたことをご紹介しました。大企業の会社員やその被扶養家族が加入する健康保険組合や、中小企業の会社員やその被扶養家族が加入する政府管掌健康保険(現・協会けんぽ)などから成る被用者保険と、被用者保険には加入できない自営業者や無業者などが加入する国民健康保険の2本立てにより、全国民がカバーされたのです。その体系は、今でも同じように続いているのでしょうか。

 現在の日本の医療保険制度は、大きく、三つに分かれています。被用者保険と、国民健康保険、それに、75歳以上の高齢者を対象とした「後期高齢者医療制度」です(図参照)。

 皆保険が達成された当時と比べると、「後期高齢者医療制度」が新しく加わっているのがわかります。これは、2008年に創設された制度で、それまで、国民健康保険に加入していた高齢者(ごく一部に、高齢になっても企業に勤めている人で、被用者保険に加入していた人もありました)のうち、75歳以上の人だけを対象に、別の制度を作ったのです(ちなみに、65歳以上の人を「高齢者」と呼びますが、65~74歳の人を「前期高齢者」、75歳以上の人を「後期高齢者」と呼びます)。

 なぜ、そんなことをしたのかというと、高齢者の医療費をどうするかが、大きな問題となっていたためです。年を取ると、病気にかかりやすくなり、医療費がかさみます。一人当たり医療費で比較すると、高齢者の医療費は、若い人の医療費の数倍多くかかっています。その費用を高齢者だけに負わせると、負担があまりに重くなってしまいます。そこで、高齢者の医療費をどう支えるか、高齢者だけでは無理となれば、現役世代からの保険料や税金をどう使うかが、長年の懸案となっていたからです。

 皆保険達成時のような2本立て(被用者保険と国民健康保険)の制度の場合、勤め人の多くは定年で会社をやめますから、被用者保険にとどまることはできません。そこで、自分が住んでいる地域の市町村が運営する国民健康保険に加入します。そうすると、当然、国民健康保険には、仕事を辞めたために収入は低いが医療費は多く使う高齢者がたくさん集まります。つまり、高齢者の加入が特定の保険グループ(国民健康保険)に偏在し、その他(被用者保険)のグループとの格差が大きくなってきます。こうした状況を受け、負担の公平性の観点から調整の仕組みが必要だということになり、1982年に、「老人保健制度」という仕組みが導入されました。制度体系は2本立てのまま、ただし、高齢者にかかる医療費は、国、自治体、各保険者が共同で分担する仕組みにしたのです。しかし、被用者保険の負担が急増したため、「後期高齢者医療制度」という新たな制度を作ることにしました。なぜ75歳以上を別建ての制度にしたのかといえば、75歳を過ぎると、医療機関に行く機会が増え、医療の使い方も現役世代とは異なると考えられたためです。

 この制度では、75歳になると、全員がそれまで加入していた保険グループから外れ、後期高齢者医療制度に個人単位(一人ひとり)で加入します。財源は、かかった医療費の1割(現役並み所得者は3割)を患者が自己負担し、残る費用が制度から給付されます。その費用のうち、1割が高齢者自身の保険料、残りの9割のうち5割が税金、4割が現役世代からの支援金(74歳以下が加入する各保険者からの支援金)で賄われます。保険の運営は、「後期高齢者医療広域連合」があたります。後期高齢者医療広域連合は、都道府県単位で、その地域の全市町村が参加して設立した団体です。なお、財源について、ほかの保険グループはどうなっているかを言えば、被用者保険のうちの健康保険組合は基本的に会社員と企業の保険料で賄っていますが、財政状況が厳しい国民健康保険や協会けんぽには税金が投入されています。

 被用者保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度――。原則的に、この三つの制度体系のいずれかに国民は加入して、保険料を支払えば医療サービス(給付)を得られることから、国民皆保険は今でも日本の社会保障の大きな特徴となっているのです。

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inokuma

猪熊律子(いのくま・りつこ)
読売新聞東京本社社会保障部デスク。 1985年、読売新聞社に入社。地方部、生活情報部などを経て、2000年から社会保障部に在籍。1998~99年、フルブライト奨学生兼読売新聞海外留学生として、米スタンフォード大学のジャーナリスト向けプログラム「ジョン・エス・ナイト・フェローシップ」に留学。2009年、早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了(社会保障法)。好きな物:ワイン、映画、旅、歌など。著書に「社会保障のグランドデザイン~記者の眼でとらえた『生活保障』構築への新たな視点」(中央法規)など。

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