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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

yomiDr.記事アーカイブ

治らないがんと生きる

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 いま日本人が一番亡くなっている病気は何ですか?

 皆さん、この答えはご存じですか?

 そう、がんです。現在約36万人(2012年)の方ががんでお亡くなりになっています。それでは2位は何ですか?

 答えは心疾患です。こちらも約19万9千人(同)と多いですが、ざっくり言いますと、がんに比べると半分くらいの数ではあります。

 高齢化の影響が強いため、がん死亡率は上昇しています。しかし、年齢の影響を除いて考えると、がんの死亡率は下がっています。

 がんも進み具合によっては、治療も経過も変わります。例えば早期がんの場合であれば、その治療の目的が完全に治ることになりますが、進行したがんで完全に腫瘍を手術等で取りきることができない場合は、できるだけ機能を低下させない、かつ長く生きられるようにする、というのが治療の目的となります。

 誰しも病気になれば治りたいと思うのは当然です。私も何度も病気をしたことがありますから、元に戻ってほしいと願う気持ちはとてもよくわかります。前回の内容とも重なりますが、失って真に、人はその普通にあった「健康」の大切さをまざまざと思い知らされるのです。

 けれども非常に進んでしまっているがんの場合の治療の目的は、根治ではありませんし、逆にそれを目指して例えば抗がん剤治療をし続けても、いつか最期が訪れてしまいます。抗がん剤治療と並行して、限られた時間をご自身にとって充足されたものにするという「人生の質」の観点から動いていくことが不可欠なのです。

 もちろん私も、進行したがんで治療をされていらっしゃる方に長く生きてほしいと願っています。しかし治療だけで時間を過ごして、それで人生が終わってしまったら、悔いが残るのはご本人なのではないかと思いますし、実際にそういう声も患者さんからあるいはご家族からたくさん聞いてまいりました。

 またさらにがんの特性として、最後の経過は早い、というものがあります。よく有名人ががんで亡くなった時に、「急だった」「早かった」という感想が周囲の方から聞かれることもありますし、そういう印象を私たちが受けることがあります。ただそれも「当たり前」の経過なのです。最後の何週間の経過は一般に早いのががんの特性です。詳しくは近著『どんな病気でも後悔しない死に方』に記してありますのでどうかご参照ください。

 がんという病気の特性を知っておけば、いざなった際にも、治療と並行して「良い人生」を作り上げることができるのではないかと思います。次回、この「並行」について事例を挙げて皆さんと考えたいと思います。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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