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一緒に学ぼう 社会保障のABC

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国民皆保険・皆年金(17)皆年金創設時の「証言」(下)

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一人残らず医療も年金も 「格好いいこと、よく打ち上げたな」

 ――社会保険方式でありながら国民みんなに保障ができたのは、低所得者への保険料免除という仕組みを入れたからですね。

 「免除の手続きさえしていれば、税金相当分の年金が受け取れます。全く年金がゼロになるわけじゃない。保険料が強制徴収ではないところが国民年金制度の弱みであることは事実です。ですが、自主納付できない人が多くなったから税金でやろうという考え方は、間違っていると思います」


 ――社会保険方式を日本が採用した理由として、税方式だとスティグマ(恥辱)が生じやすいのに比べ、社会保険方式は自らの力でできるだけ備えをするという自立性があるからだと言われます。どう思われますか。

 「それはあると思います。英語で“Heaven helps those who help themselves”と言うでしょう。天は自ら助くるものを助く、と訳されます。社会保障は、自ら助くるものを助けるのであって、初めから国が助けるのではない。そういう考え方が、イギリス人にもある。資本主義、市場経済は自分の責任でやるということ。自立と尊厳を持ち、自分の義務と責任を果たすのが大事です。自助が最初にあって、それで生活が難しい人は、みんなで助ける。その仕組みが社会保障だと思います。自分でまず最大限の努力をする。その結果責任も負う。結果が平等でないのは仕方ありませんが、それで生活が難しい人は助けるのが基本ではないでしょうか。生まれてきたらみんな全部、国が保障するというのは、ちょっと違うんじゃないのと思います」

 「ついでに言えば、現在の憲法には、納税や勤労の義務は書いてありますが、社会保険料納付の義務はありません。社会保障の立場からすれば、改憲するならそれぐらいは書いてほしいなと思いますね。生存権の保障責任は、最終的には国にありますが、初めから国ではないのでは。給付を抑制する気持ちは全くありませんが、自ら律する気持ちもないと、制度は成り立ちません」


 ――国民皆保険・皆年金の評価は。

 「自分は一兵卒でよくわからない時でしたけれど、まだ日本の経済も一人前でないときに、一人残らず保険制度に加入させて医療も年金も受けられるようにするという、理想もいいところ、格好のいいことを、よくあの時代に、よく打ち上げたなという感じはしますね。国民所得倍増計画と同時期に打ち出されたというのは、タイミングとしては非常に良かったんだと思います。あの時代、国の大きなプロジェクトが全部一斉にスタートしました。新幹線や、高速道路の計画も、1964年(昭和39年)の東京オリンピックを目指して走り出しました。産業のインフラ、交通のインフラ、農業基本法などが、昭和30年代初めに議論され、半ばからスタートしました。そんな時期に、皆保険・皆年金がよく出来たと思います」

 「さらに言えば、皆保険はまだしも、皆年金なんてある意味、今、考えても無茶なこと。政治が言い出したから、厚生省はそんなことが出来るわけはないじゃないかと思いながら、必死になって作った。少々出来が悪かったり、問題点があったりしても、しょうがないじゃないかという思いも正直、あります。でも、作る以上は、一人残らず年金をもらえるようにしようと、必死に作った制度なんです。出来が悪い、悪いと今さら言われても、どれだけみんな一生懸命考えて苦労して作ったか、少しはわかってもらいたいな、という気持ちもありますね(笑)」


吉原健二氏
 1955年、東大法学部卒。厚生省入省。年金局長、厚生事務次官などを歴任し、1990年、退職。人口問題審議会、社会保障制度審議会、年金審議会等の委員を務め、現在は財団法人厚生年金事業振興団顧問。著書に「わが国の公的年金制度―その生い立ちと歩み―」(2004年、中央法規出版)など。


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inokuma

猪熊律子(いのくま・りつこ)
読売新聞東京本社社会保障部デスク。 1985年、読売新聞社に入社。地方部、生活情報部などを経て、2000年から社会保障部に在籍。1998~99年、フルブライト奨学生兼読売新聞海外留学生として、米スタンフォード大学のジャーナリスト向けプログラム「ジョン・エス・ナイト・フェローシップ」に留学。2009年、早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了(社会保障法)。好きな物:ワイン、映画、旅、歌など。著書に「社会保障のグランドデザイン~記者の眼でとらえた『生活保障』構築への新たな視点」(中央法規)など。

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