文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

一緒に学ぼう 社会保障のABC

yomiDr.記事アーカイブ

国民皆保険・皆年金(16)皆年金創設時の「証言」(上)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

日本ならではのハイブリッド方式「まあまあうまくやってきた」

 これまで、「国民皆保険・皆年金とは何なのか」「いつ頃、どういう経緯で出来たのか」について学んできました。「現在、問題になっていることは何なのか」「どうすればよいのか」について話を進める前に、国民皆年金達成当時の様子を知る吉原健二さん(現・財団法人厚生年金事業振興団顧問)のインタビューをご紹介したいと思います。

 吉原さんは、1955年(昭和30年)、厚生省(当時)に入省し、後に年金局長、厚生事務次官などを務めました。戦後、国民年金法の法案作成に向けて設けられたプロジェクトチームの一員に、入省したての吉原さんも加わり、国民年金制度創設の過程をつぶさに見てきたといいます。国民年金法が1959年(昭和34年)に成立し、1961年(昭和36年)に国民皆年金が実現した経緯は、このコラムでも数回に分けてご紹介しましたが、改めて、当時の様子を語ってもらいました。

 ――日本の年金制度は、「保険料を拠出して給付を受ける」という社会保険方式を基本としながら、保険料を拠出できない人まで制度に含める、つまり、国民全員に年金を保障するという世界でも珍しい仕組みになっています。なぜ、そうした仕組みが採用されたのでしょうか。

 「保険料を拠出できない人も含めて全国民に年金を保障すると、当時の自民党が言い出して、これは困ったことになったなと、厚生省としては思ったわけです。そもそも、年金制度を税方式で行うか社会保険方式で行うかは議論があり、所得がない人もたくさんいる中で、社会保険方式でやるなんて無理だ、馬鹿じゃないかとも言われました。でも、理想として全国民に年金を出したいと言っているのに、所得のある人だけを対象にしたらどうするのと。その場合は税でやるより仕方がない。税でやるとしたら、70歳から、(当時の金額で)月800円とか1000円ぐらいの給付になってしまうわけです」


 ――少額の年金になってしまうわけですね。

 「税で始めたら、その方がみんな喜ぶに決まっています。社会保険料を払わなくて済みますから。しかし、いったん税方式で始めたら、日本の年金制度は拠出制(社会保険方式)では出来なくなるだろうと。所得のない人、低所得の人も社会保険の中に取り込んで、何らかの手当てをしながら、将来は拠出制の年金をもらえるようにした方が良いということで、国民年金制度が出来ました。もともと、低所得者や所得のない人まで含めること自体が矛盾した話で、成り立たないと言われれば、それはそうなんです。ただ、保険料納付期間が30年、40年ありますから、一生払えないわけではないでしょうと。もちろん、生まれながらに障害があって働けない人や、制度開始時に70歳、80歳になっている人は税でやるしかない。でも、今、所得がないからといって、所得がある人だけを対象にすると、ごく一部の人しか加入できなくなる」


 ――所得税を払っている人だけに絞ったら、実質的に対象とすべき人の約2割にしかならなかったといわれています。

 「そうです。ですから、65歳から、せめて月2000円ぐらいもらえるようにするには、とにかく入れるだけ入ってもらってもらおうと。払える時に払ってもらおう、払えない時は免除しようということになりました。迷いに迷った末に、厚生省のプロジェクトチームの長で、初代年金局長となった小山進次郎さんと、自民党の国民年金実施対策特別委員会委員長の野田卯一さんが決めたのです。一つの決断です。そうでない選択肢もあったかもしれないが、別の選択肢を選んでいたら、今の年金はみじめな制度になっていたでしょう。その後、拠出制の年金ができたかどうかもわかりません」


 ――税方式については、どう考えられますか?

 「保険料を払えない人が多くなったから税方式でやろうという議論が近年、聞かれるようになりましたが、本末転倒だと思います。税方式でやったら、消費税も10%では済みません。20%でも足りないぐらいでしょう。それだけ税金を払う覚悟がありますか、ということです。もちろん、所得がない人を社会保険に入れるというのも、保険制度としては無理がある考え方ですが。年金にしても、医療にしても、日本の制度は、社会保険方式といいながら、かなり福祉的な要素を持っている。税金を随分と入れています。税と保険の折衷が日本の社会保障制度の特徴ともいえます。車でいうハイブリッド混合方式ですね」


 ――確かに、給付費の半分も税金を入れて、それで社会保険方式と言えるのかという人もいます。

 「日本が社会保障制度を作る際にお手本にしたドイツの社会保険の基本的な考え方は、財源はなるべく保険料で賄い、国の関与は受けずに自分たちで運営するというものです。それに比べると、日本は、制度を一元化して、全部国でせよ、税金を入れるのも当然だ、という考えが強くなってきているように感じます。日本の制度は税金を投入した折衷方式で、制度が曖昧だという人もいますが、これまではその方式でまあまあうまくやってきたと言えるではないかと思います」


「皆年金創設時の「証言」(下)」に続く

吉原健二氏
 1955年、東大法学部卒。厚生省入省。年金局長、厚生事務次官などを歴任し、1990年、退職。人口問題審議会、社会保障制度審議会、年金審議会等の委員を務め、現在は財団法人厚生年金事業振興団顧問。著書に「わが国の公的年金制度―その生い立ちと歩み―」(2004年、中央法規出版)など。


  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

inokuma

猪熊律子(いのくま・りつこ)
読売新聞東京本社社会保障部デスク。 1985年、読売新聞社に入社。地方部、生活情報部などを経て、2000年から社会保障部に在籍。1998~99年、フルブライト奨学生兼読売新聞海外留学生として、米スタンフォード大学のジャーナリスト向けプログラム「ジョン・エス・ナイト・フェローシップ」に留学。2009年、早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了(社会保障法)。好きな物:ワイン、映画、旅、歌など。著書に「社会保障のグランドデザイン~記者の眼でとらえた『生活保障』構築への新たな視点」(中央法規)など。

一緒に学ぼう 社会保障のABCの一覧を見る

最新記事