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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

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明日、終わるかもしれない人生だから

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 先日も、閉じた踏切の中で高齢の男性を救出しようとした40歳の女性が亡くなり、タレントの「桜塚やっくん」が不慮の事故に遭ってこの世を去りました。残念で悲しいことです。

 不慮の事故死を遂げられる方は年間4万1031人(2012年)います。計算すると約13分に1人亡くなっていることになります。

 不慮の事故で亡くなった方も「まさか」今日がそんな日になるとは、思わなかったはずです。しかし運命は容赦のない仕打ちをするものです。

 私は2011年2月、たまたまインタビューにこう答えました。「多くの人にとって明日はあるが、それは決して100%ではない」と。もちろん翌月に来た震災を予知したものではありませんでした。私にとっての日常をありのままにお伝えしただけです。

 医療現場という、人が亡くなっていく場所で働いておりますと、「多くの人にとって明日はあるが、それは決して100%ではない」のはむしろ当たり前のことなのです。「まさか」こそ当たり前で、普通です。

 突然の病気、家族の交通事故、気がついた時には末期のがん、そのような事態を突然迎えてしまった方たちを病院ではたくさん拝見します。けれども突然つらい事態が降りかかって来たとしても、ほとんどの場合彼らが何か悪いわけではないのです。一生懸命、まじめに、ひたむきに生きているとしても、ひとたび運命の機嫌が悪くなると、雲行きがまるで変わってしまうのが人の世なのです。

 ただ明日何が起こるかを完璧に予測できなくても、人の最期にどのようなことが起こるかを知り、かつて同じような事態を迎えた方たちがどのように問題と向き合い、乗り越えたのか、それを学ぶことは自分がもしそのような事態を迎えた時も一定の力になってくれることは間違いありません。

 私は『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)で、長年夫婦の気持ちが離れてしまっていた40代女性が、ご主人との関係を取り戻したエピソードを書きました。人は失わないとなかなかその大切さに気がつけず、これは「源氏物語」など古来からの文学作品を見ても、既に1000年以上受け継がれ、繰り返されてきている業であります。「健康なうちからこうできていたら……」私は何度そういう嘆きを聴いて来たかわかりません。

 明日、終わるかもしれないのです。そう思えば、自分の人生も、周囲の方たちとの関係も、かけがえなく貴重なものです。それに気がついた時、人は10の習慣の最大の1つ、「ありがとう」と“心から”伝えることができるはずです。

 一期一会とそこから生まれる感謝、それを大切にして生きるのが「死ぬ時に後悔しないために元気なうちから気をつけること」の第一だと思います。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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