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ぬいぐるみ専用ツアー 旅する「分身」に励まされ

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「リハビリに挑戦」「息子に自立促せた」

サイクリングを楽しむぬいぐるみたちの様子を撮影し、フェイスブックで随時報告する東さん(東京・代々木公園で)

 ぬいぐるみが持ち主に代わって旅をする。一風変わったツアーが人気を呼んでいる。ツアーの様子はフェイスブックを使って随時写真入りで伝えられ、持ち主は遠方から旅を疑似体験する。ぬいぐるみを旅に出す人々の心情とは――。(高梨ゆき子)

 好天に恵まれた9月のある日、石川県から来たペンギンのペンちゃんと、京都府に住む羊のひろしくんら“5人”が参加したのは、行き先が事前に明かされないミステリーツアー。東京の代々木公園をサイクリングし、東京五輪の記念碑などを回ったら、パンケーキで腹ごしらえ。午後からは都庁の展望台を見学した。以上で、参加費2000円。

 主催するウナギトラベル(http://unagi-travel.com/)の(あずま)園絵さん(38)は3年前から、ぬいぐるみ専用ツアーを手がける。自分で作ったウナギのぬいぐるみを旅させてブログにつづり、友人らに好評だったのがきっかけ。当初は口コミで小規模に始めたが、人気が出てきた最近は、多い時で月10回程度、ツアーを行う。出雲、鎌倉、横浜といった国内から、米国など海外にも手を広げる。「これまで2百数十件の利用がありました。繰り返し利用するケースも多く、4割はリピーターです」と東さん。

パンケーキに大喜びするぬいぐるみたち

 利用者の動機や背景は様々だ。「ぬいぐるみを通して見た景色をいつか自分で見たいし、歩きたい」と言うのは、度々利用する佐賀県の主婦(51)。病気で足が不自由になり、自宅にこもっていた毎日が、ツアーを利用するようになって変わった。いやだったリハビリに挑戦したり、数年ぶりに隣県まで買い物に出たり。

 主婦は「ぬいぐるみが旅する姿が刺激になり、できないことを嘆くより、できることをしようと思えるようになった」と語る。

 重い障害があり、車いすを使う関東地方の女性もリピーターの一人。ツアーで自分のぬいぐるみが、階段や狭い道を行き、集合写真で他のぬいぐるみを支えてあげているのを見て、「私にできないことをしている」と大感激。ふだんは外出を避けがちなのに、東さんに会いにやって来た。

 このほか、「父の死で沈んでいた家族が明るくなり、会話が増えた」「小学生になってもぬいぐるみを離さない息子に自立を促すきっかけになった」「転職に迷う日々、ぬいぐるみを通じた知らない人との交流が楽しみ」という人もいる。

 こうした利用者の心情について、お茶の水女子大教授(発達心理学)の井原成男(なりお)さんは「旅するぬいぐるみが、心理学で言うイマジナリー・コンパニオン(空想上の友)に近い役割をしているのではないか」と分析する。イマジナリー・コンパニオンは、人が次の段階へ進むための橋渡しをしてくれる存在。「自分の分身を旅させることが、実際に外の世界に踏み出したり他人と交流したりするまでのつなぎ役を務めている。ぬいぐるみツアーは精神的なリハーサルになっているのでしょう」というのが、井原さんの見立てだ。

 東さんは「単にぬいぐるみを旅させて終わり、ではなく、温かいコミュニケーションの機会になればと思う。前向きになれないでいる人が、一歩踏み出す励みにつながっているならうれしい」と話している。

イマジナリー・コンパニオン(Imaginary Companion)
 主に子どもに見られる心理現象で、架空の人や動物、妖精などを自分の空想上の友人として遊んだり話したりし、孤独を補う。発達段階が進み、成長すると見られなくなる。
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