文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

お知らせ・イベント

お知らせ・イベント

(2)「自分らしさ」で痛みに違い

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 町永 がんの3大療法は手術、抗がん剤、放射線ですが副作用もあります。

 北島 抗がん剤は、がん細胞を攻撃すると同時に正常細胞も攻撃してしまうため、副作用が出ます。そこが大きな欠点です。ただ、抗がん剤も、がん細胞だけをたたく分子標的治療薬の研究が進んでいます。
 手術は、がん組織と周囲のリンパ節をすべて取るのが原則ですが、最近は、がんから最初に転移する可能性があるリンパ節を調べて、転移がなければ、その先のリンパ節は取らないという、体への負担が少ない手術が増えました。

緒方真子さん

 緒方 副作用が怖くて、抗がん剤を拒否する人も少なくありません。以前は医療者も「命が助かるのに文句があるのか」みたいな感覚があったように思います。そして患者も、それを当たり前として耐えている面がありました。

 大西 副作用の軽減は、充実した日常生活、円滑な治療に欠かせません。事前説明が不十分だと不安になり、ストレスの原因になりますから、やはり医療者がきちんとした説明を行うことが求められます。

 町永 看護師は、医療者と患者の間に立ち、患者の痛みの問題を伝えていただける立場ですね。

 梅田 同じ指先の痛みでも、コンピューターを打つ仕事の方と、あまり手は使わない方では意味が違います。その患者にとって、どんな症状が生活の支障になるのかを事前に聞いたり、その程度を教えてもらったりするように努めています。

 町永 患者会の皆さんからは、どんな痛みの訴えが聞かれますか。

 緒方 例えば、口内炎がひどくて友人と外食ができない、指先がしびれて好きな手芸ができない、散歩好きだった人が足がしびれて歩けないなど、生活の楽しみを奪われる経験はよく耳にします。

 町永 自分らしい暮らしができない苦痛に、どう向き合えばいいのでしょう。

 梅田 とても難しいです。患者は、それを医療者に伝えていいのか、躊躇して我慢することが多いので、まずそういう環境を改善しないといけません。

 町永 痛みは主観的なものです。その大きさを伝えるために、痛みのフェーススケールがあります。1段階から6段階まで顔の表情が描かれており、痛みがない場合はニッコリ、痛みが強くなるにつれて、表情が険しくなります。

 梅田 数字が並んだスケールもあります。私は患者さんに、まったく痛みがなければ0で、これ以上ないほどの痛みを10として、「今の痛みはどの位置ですか」と聞いています。

 町永 治療の効果も推し測れそうですね。

 梅田 例えば、鎮痛薬を飲んで6の痛みが3になったなら、そのまま飲み続けていいかもしれないし、逆に、それを飲んでも痛みが増したなら、別の治療を考えるべきです。


緩和ケア 診断時から

大西秀樹さん

 町永 体の痛みに対する治療法を教えてください。

 大西 まず、非オピオイドの消炎鎮痛薬を使います。効かない場合はモルヒネなどの医療用麻薬を使います。いまだに多くの方が、モルヒネと聞くと中毒になるとか、最後の薬と考えているようですが、間違いです。ただ、急にやめると離脱反応が出ることがあるので、医師が処方した量を適切に飲むことが大切です。

 町永 近年は漢方薬も注目されています。

 北島 西洋薬である抗がん剤は、がん細胞を攻撃しますが、栄養状態や気力、体力が落ちて副作用が出ます。そこで漢方薬で患者の体のバランスを良くすると、抗がん剤と漢方がうまく融合したレベルの高い医療ができます。

 町永 漢方は現場ではかなり使われていますか。

 北島 漢方によっては、日本の病院の9割近い病院で使われている薬もあります。私はロボット手術や内視鏡手術をやってきたので、「なぜ先生が漢方を?」と言われますが、自分が腸の動きが悪い時に大建中湯を使いました。西洋薬は効き過ぎて腸管が動き過ぎるのですが、大建中湯はマイルドな治療ができます。
 大腸の手術を受けた患者を、大建中湯を投与した群としない群で比べると、投与群は在院日数も入院期間も短かった。科学的証拠がつかめたわけです。
 全身倦怠感には補中益気湯、食欲不振や吐き気などには六君子湯がよく使われます。末梢神経障害によるしびれには牛車腎気丸を与えると、実験で今まで動けなかったラットが動き出すなど、基礎研究も進んでいます。

 町永 漢方やモルヒネなどで痛みをとる治療は、緩和ケアと呼ばれます。

 北島 緩和ケアも治療法の一つと考えられます。なぜなら、抗がん剤治療単独の群と、抗がん剤と緩和ケアを併用した群を比べると、併用した群の方が生存期間が延びるのです。一流医学誌に報告があります。

 大西 緩和ケアで患者の命が長くなり、生活の質も上がれば、こんなにいいことはありません。緩和ケアは従来、すべての治療の後に行われていましたが、今では診断時点から始めて、生活の質を上げると同時に長く生きられるようにするものに変わってきました。

 町永 患者会の皆さんも、やはりモルヒネには抵抗感がありますか。

 緒方 モルヒネは最後の医療で、そこに行き着くともう戻れないんじゃないかという感覚はあります。医療の進歩から患者の意識が置き去りにされているので、医療者が説得力のある説明をしてほしいです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

お知らせ・イベントの一覧を見る

最新記事