文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

いのちに優しく いまづ医師漢方ブログ

yomiDr.記事アーカイブ

家族が疲れきってしまう前に

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 「母は、がんの手術を受けたのですが、再発をして現在、抗がん剤治療を受けています。知人に勧められて高い漢方薬を飲んでいたのですが、経済的に続かなくなりこちらを受診しました」と、Rさんがお見えになりました。Rさんは40歳代の男性で、営業の仕事をしています。

 「少しでも体にいいものを食べてもらおうと、食事にも気をつかっています。病院から言われたことは、しっかりと守るようにしています」とびっしりとメモされたノートを見せてもらいました。

 Rさんとお母様はいつも一緒に来院され、二人三脚でがん治療に取り組んでいらっしゃいました。そんなRさんと何度もお会いするうちに、わたしは心配になってきました。「看護疲れ」のためにRさんの表情がだんだんとなくなってきたからです。

 母を思う息子の気持ちは強いのですが、仕事と看護を両立させながら続けてきたことで、Rさん自身の負担が大きくふくれあがってしまったわけです。

 がん治療は本人にも家族にも大きな負担がかかります。その負担は、単に肉体的なものだけではなく、精神的、経済的、社会的と多くのものが重なってきます。Rさんのように、母親の世話を一身に引き受けていると知らないうちに自分自身が病に侵されてしまいます。

 わたしはRさんの健康が心配になり、「ねぇ、Rさん。お母さんのことも大切だけれど、あなた自身の体も気をつかってあげないといけませんね」と、漢方治療をすすめました。精神的に疲れ、体力が徐々に衰えはじめていましたので、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」を内服してもらうことにしました。

 補中益気湯は、夏ばてに使われる漢方薬です。しばしば、がん治療にも応用され、広く使われています。

 お母様の診察がすんだ後、Rさんも私の診察を受けるようになりました。夏の暑いときは、日焼けがひどく肌が真っ赤に腫れ上がってしまう体質でしたので、「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」を内服してもらいました。秋になり、急に涼しくなったとき咳(せき)が止まらなくなってしまったので「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」を処方させていただきました。

 そうやって治療をしながら、少しずつ看護でたまった肉体的負担を軽くすると同時に、精神的負担を診ることも重視しました。単に体の悪いところを治す漢方薬を処方するだけでなく、がん治療への不安や疑問からくる精神的負担を軽くすることが大切だと考えたからです。できるかぎりRさんのお話を聞くようにしました。

 そうやって1年が過ぎたある日、Rさんのお母様は天寿を全うされました。

 さびしそうにひとり診察にお見えになったRさんから「わたしが元気で看護できたから、最後まで母をてあげることができました。ありがとうございました」と、言葉をいただきました。

 多くのがん患者さんを支える家族の方が、元気で健康でなければ、がん診療は成り立ちません。いっしょに生活をしている家族へも漢方医学が届くように心から願っています。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

いまづ医師の漢方ブログ_顔120

今津嘉宏(いまづ よしひろ)

芝大門いまづクリニック(東京都港区)院長

藤田保健衛生大学医学部卒業後に慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センター等を経て現職。

日本がん治療認定機構認定医・暫定教育医、日本外科学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医

いのちに優しく いまづ医師漢方ブログの一覧を見る

2件 のコメント

上を向いて歩こう 涙がこぼれないように

埼玉のシニア

私にコメントする資格があるでしょうか。先生のブログにある様に、身内に事があると介護する側に精神的、肉体的なストレスがたまり、どうしようもない苦し...

私にコメントする資格があるでしょうか。
先生のブログにある様に、身内に事があると介護する側に精神的、肉体的なストレスがたまり、どうしようもない苦しみに神に祈り、逃避行動を探したり投げ出したくなります。

他人からは あなたが大丈夫かと よく私も言われましたが、市役所で家内の病状を話し解決方法を聞いているときに、思わず涙が止まらずトイレに駆け込んでしまった事があります。針の筵を歩いているようで、たまらなく人前で涙を流しました。精神がぼろぼろでしたので、、、、。

神や仏が居るわけでもないのですが、心のどこかですがっているのですね。先生の処方が良ければ私もと思いますが、ひとまずはホームに入居出来た事で苦しみはなくなりました。消えたわけではないのですが、、、、。

めざめたじいさん、ご家族の苦労はみんなのものではないのですが、励ましや直接の声掛けがどんなに手助けになるか、身をもって理解しているつもりですので、明るく自然に、どんな時もくよくよせず、今後も生きながらえて見守って行きたいものですが、、、。

私が口をはさむ事ではありませんが、、、。

つづきを読む

違反報告

泣きっ面に ハチ!

めざめたじいさん

 2月の終わりごろ息子からメール。4月から人事異動で降格されると。障害児の娘と障害者2級の嫁を抱え、いままで会社にも迷惑掛け通しだった。子らまで...

 2月の終わりごろ息子からメール。4月から人事異動で降格されると。障害児の娘と障害者2級の嫁を抱え、いままで会社にも迷惑掛け通しだった。子らまで寛容だった会社も、面倒見切れなくなったのだろう。

 「お前はこれまで良く頑張った。辛いと言ったことがなかったのは立派。良いときもあったのだし、これからまた復活できることもある、平常心で全力を尽くしなさい。嫁や娘に泣き顔を見せてはいけない。癌で倒れそうな母親にも言ってはいけない。いままで道理顔に出さないこと」と、励ます。

 数日前、またメール、嫁がベル麻痺になったと。甲状腺異常、神経内科、精神科、耳鼻科・・次々見つかる病。息子たちは50を過ぎて身体に変化が出る頃。

 嫁の母親が言った残酷なことば「貴方も第1子が不作だった」。母親の第1子が本人なのだ。その母親は「嫁に出したのだから私は手を出さない」と。

 神様、もう私たち親子をこれ以上苦しめないで下さい、と言いたい。でも、現実は変わらない、私が頑張らないと共倒れになるから。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

最新記事