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体の声を聴く

からだコラム

[体の声を聴く]「ダンボの耳」は心の叫び

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 「左耳が(ディズニー映画に登場する子象の)“ダンボの耳”のようになっている」。そんな違和感を訴えて紹介されてきた中年女性Aさん。数か所の耳鼻科を受診し、異常はありませんでした。

 こんな訴えの患者さんは初めてです。初診は内科的な診察を行いながら、体の症状の背後に潜む心理・社会面との関係を聴いていきます。

 私が指で左の首から肩にかけて押さえたその時、「今、ダンボの耳の様です!」とAさん。「Aさん、自分の手でそこを押さえてください。そこは何でしょう」「神経? 骨? あ、筋肉!」「そうです。どうしてこんなに凝っているのですか」。診察と会話を続け、次のことが分かりました。

 半年前、一人息子が大学に入学した直後、夫が心筋梗塞で急死。学費を工面するため、道路工事現場でトランシーバーを左の耳と肩に挟み、交通整理の仕事を一日中していた。それで強い筋肉痛になっていたのです。夫の死を受け入れられず、仕事に没入することで悲しみに向き合うのを避けていたことも分かりました。

 そのことを伝えると、突然、Aさんの顔がゆがみ、涙があふれてきたのです。「“ダンボの耳”の原因が分かったでしょう。今日の初診で私の診療も終わりにしましょうね」。Aさんはその意味を理解し、にっこりほほ笑んで診察室を後にしました。

 診察室で症状を再現し、その原因を伝えながら、Aさんの苦しみを理解したことが最も大切でした。体の声は心の声からの叫びだったのです。後日、Aさんから手紙が届きました。他の医療機関を受診することもなく良くなっていたそうです。(清仁会洛西ニュータウン病院名誉院長・心療内科部長 中井吉英)

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