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山口デスクの「ヨミドク映画館」

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極端な格差社会、そして健康格差~エリジウム

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 監督は、地球に暮らすエイリアン難民と人類の対立を描いた2009年のデビュー作「第9地区」で、米アカデミー賞4部門にノミネートされたニール・ブロムカンプ。出演はマット・デイモン、ジョディ・フォスター。そして、どんな病気でもあっという間に治す機械まで登場する――。こうなると、この欄で取り上げないわけにはいきません。

 「エリジウム」(2013年/米国、9月20日全国公開)。エリジウム(elysium)は、英語で極楽とか理想郷、楽園という意味。SFエンターテインメントですが、社会的なメッセージもしっかり込められています。ストーリーを試写会資料などからまとめると――。

 21世紀末から地球は環境汚染と人口増加で荒廃し、一握りの富裕層は、地表から400キロ上空にあるスペースコロニー(宇宙に建造された人工の居住地)「エリジウム」に移り住んだ。しかし、地球にのこされた人々は、手を伸ばせば届きそうなのに決してたどり着けないエリジウムを見上げながら、汚染や貧困のなかで生きるしかすべがなかった。

 2154年、ロサンゼルスのスラムに暮らすマックス(マット・デイモン)は、ロボット製造工場でまじめに働いていたが、ある日現場で大きな事故に遭い、余命5日間の宣告を受けた。エリジウムには、どんな病気や傷でもあっという間に完治することができる医療ポッドがある。しかし、防衛長官デラコート(ジョディ・フォスター)は地球からの移民を禁じ、密入国者は容赦なく排除する。それでもマックスはエリジウム行きを決意、コンピューター付きのマシンと体を結合させ、命の危険にさらされながらエリジウムへ向かう――。

宇宙に浮かぶエリジウム

 エリジウムの設定は、幅3キロ、直径60キロのドーナツ状のスペースコロニー。ドーナツはスポークで結ばれ、回転して重力を作ります。このタイプのスペースコロニーは、1970年代にスタンフォード大学で提案され、「スタンフォード・トーラス型」と呼ばれるそうです。

 地球は荒廃し、ほこりっぽく、高層ビルはボロボロ。色彩をひと言で言うと「茶色」です。一方、宇宙に浮かぶこの巨大なドーナツにカメラが近づくと、植物やきれいなビル、水面などが鮮やかに目に飛び込んでくる。このあたりの映像が対照的でおもしろい。

エリジウムの内部。豊かな自然と建造物は今の地球と変わらない

 そして、エリジウムの各家庭(?)にある医療ポッドがすごい!昨年9月、このブログで映画「プロメテウス」を紹介した時、「全自動手術台」について「すごすぎる!」と書きましたが、これはそれどころじゃありません。

 医療ポッドに横たわってパネルをチョチョイと操作すれば、がんはすぐに治すわ、壊れた体の組織もあっと言う間に元通りにするわで、もう、ドラえもんもびっくりの夢の機械。医師は完全に失業しそうです。おまけに、何と「若さ」さえも持続できるらしい。ちなみにデザインは、イタリアのファッションブランドのヴェルサーチだそうな。

ヴェルサーチがデザインした医療ポッドのコンセプトアート

 さて、この映画で医療ポッドは、地球とエリジウムとの「格差」を象徴する極端な一例に過ぎません。でも、経済的に富む人たちが良い医療を受けて健康を維持する一方で、貧しい人たちが満足な医療を受けられずに健康を害してしまうという「健康格差」は、すでに現在の私たちの社会に存在する事実なのです。

 お笑いコンビ「ハリセンボン」の近藤春菜さんがやる「マイケル・ムーアじゃねえよ!」のギャグでおなじみ、マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「シッコ」(2007年/米国)では、医療費が支払えず病院に行けないために傷口を自分で縫う人や、指を事故で2本切断して高額な中指の縫合手術はあきらめざるを得なかった人、入院したのに治療費を支払えないために病院から車で連れ出されて路上に捨てられた人などを取り上げ、米国の医療制度を鋭く批判しています。

 国民皆保険制度がしっかりしている日本では、さすがにこうした極端なケースはほとんどありません。でも、経済的な格差が健康の差につながることをうかがわせる調査は国内でも少なくないのです。

 日本福祉大教授の近藤克則さんの著書「健康格差社会」は、収入や学歴、社会的地位の差の拡大が健康状態に悪影響を与えると警鐘を鳴らしています。調査によると、貧しく低学歴の高齢者ほど要介護状態やうつ、不眠、骨折につながる転倒の回数が多く、生活保護を受けている高齢者は、所得が200万円以上の人に比べ、死亡率が男性で3・1倍、女性は2・2倍高かったそうです。

 今年8月24日の本紙夕刊社会面(東京本社版)に掲載された岩永直子記者の記事では、国立社会保障・人口問題研究所の部長の調査で、所得の低い家庭の子どもは入院する割合が高く、病気からの回復力も落ちるなど、所得による健康格差があることが分かった、と書いています。

 これら日本の「経済格差による健康格差」は、医療制度の問題というよりも、食生活や住環境の悪さで病気になりやすいこと、自己管理に必要な知識や病院に連れて行く時間的な余裕がないことなど、複合的な原因が推測されています。こうした格差の解消に向けて、国は総合的な貧困対策を行わなくてはなりません。

 さて、エリジウムに乗り込んだマックスは、あるミッションを遂行すべく、壮絶な戦いに挑みます。ラスト、私は予想以上に感動しました。欲を言えば、児童養護施設で育ち、つらく厳しい生活を送ってきたマックスの「状況」だけでなく、「感情」がもっと詳細に描かれていれば、ラストできっと私は涙を流したでしょう。マット・デイモンは好きな俳優なんですけどね。

「エリジウム」
9月20日(金)から、新宿ピカデリー他全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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山口デスクの「ヨミドク映画館」_顔87

山口博弥(やまぐち ひろや)

読売新聞医療部デスク

1987年 早稲田大学法学部卒、読売新聞入社

地方部、社会部などを経て1997年から医療情報室(現・医療部)。

趣味は武道。好きな映画は泣けるヒューマンドラマとアクションもの。

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4件 のコメント

超音波とMRIの進歩 日本整形外科学会

元放射線科医 寺田次郎 六甲学院56期

日本整形外科学会に来ています。超音波の進化を教えていただきびっくりしています。精度の向上によって、指先の細い神経まで描出されたり、タブレット型モ...

日本整形外科学会に来ています。
超音波の進化を教えていただきびっくりしています。
精度の向上によって、指先の細い神経まで描出されたり、タブレット型モニターやケーブルレスのものなんかも出現しています。

僕個人の得手不得手や、ボリュームデータの存在によって、CTやMRIの方が一般的には良いのではないかと考えていましたが、超音波の機器の進歩も著しいです。
機械自体の精度やコンパクトさに拍車がかかり、救急や中小規模病院での医療、在宅医療における存在感は今後も増していくかもしれません。
海外の学会では普通のノートパソコンを超音波診断装置に変えるようなものも見かけたことがあります。

勿論、リウマチでの手関節の全体撮影やX線で明らかな骨折を認められないものの気になる病変に関してMRIの優位性を示す論文があったりと、相補的な関係であることには変わりありません。

経験や勘で判断されてきたものが可視化されて、データになっていく時代なんだなあ・・・と実感しています。
それでも見えないものや見落としが発生することを忘れてはいけませんが。

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今はそうでしょう

昔と今と未来

>所得の低い家庭の子どもは入院する割合が高く、病気からの回復力も落ちるなど、所得による健康格差があることが分かった、と書いています。今現在はこの...

>所得の低い家庭の子どもは入院する割合が高く、病気からの回復力も落ちるなど、所得による健康格差があることが分かった、と書いています。

今現在はこの結果でいいとは思いますけど。
停電、断水、インフラの停止。
さて、どうなるでしょうということも興味を引きます。

医療もこれといった文化のない生活をしていた、昔の人が、この結果なら、今渡し区たちは存在したのかと、ふと思うこのごろです。

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医療の宗教性と多様性 医療と反医療

元放射線科医 寺田次郎 六甲学院56期

バルサルタン問題に続いて、徳洲会、東大と医療における問題が続出しています。まだ、過ちを認めている組織は素晴らしいですね。読売新聞社様をはじめとす...

バルサルタン問題に続いて、徳洲会、東大と医療における問題が続出しています。
まだ、過ちを認めている組織は素晴らしいですね。

読売新聞社様をはじめとする関係各社様のおかげで、色々と表現させていただいてますが、何が正しい医療なのか? という疑問をお持ちの方もおられると思います。

これはとても難しい問題です。
理由は、クスリの半分は気分=プラシーボ効果があるからですね。
また、診断が正確に行われない場合もあります。
(わからない部分も含めて)。
その事を含めた丁寧な診察はお金になりません。

それから、科学や機械の進歩の中で、覆ってしまうことがあります。
隠蔽やねつ造はいけませんが、データ整理の中で、過去のデータの細微な部分が覆ることがあり得ます。
一つ覆ることで、オセロのように変わってしまうこともあり得ます。

やっぱり、そういう真面目なことを言うと、ご不興を買ってしまうこともあって、たまに恫喝されることもあります。
また、患者さん個々人が信じている先生の治療があるので、難しい部分があります。
ほとんどそれは宗教に近いです。
特に過去と現在のスタンダードが切り替わっている部分の手入れが難しいですね。
患者の希望であれば、異常が著しくない限り、患者さんの要望に沿うのが今のスタンダードですからね。
僕はマイルドに様子を見ることが多いです。

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