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母子感染 自責の念

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情報不足、偏見に苦しむ

 妊産婦が持つウイルスなどが胎盤や産道、母乳を通じて子どもに影響を及ぼす母子感染。母親は孤立しがちだ。「大切な子どもに障害を負わせてしまった」と自分を責め続けるだけでなく、情報不足や周囲の偏見にも苦しんでいる。 (中島久美子)

求められる支援の場

 札幌市の吉田美知代さん(40)の長女陽菜(ひな)ちゃん(10)は、先天性サイトメガロウイルス感染症だ。胎児が感染すると、難聴などの原因になる。生後1か月で診断され、自宅の医学書で調べた。性感染症の一つとあった。心当たりがない。恥ずかしさで誰にも相談できなかった。

 さらに、追いつめたのは、主治医の指導だった。

 「2人とも、1年は妊婦に近づかないように」

 人混みは避け、おむつ売り場など妊婦がいそうな場所ではマスクをつけ、妊婦の友人の誘いは断った。

 「私たち親子は生きていていいのだろうか、とまで思い詰めました」

 そんな気持ちが和らぐきっかけは、インターネットで、同じ経験をした母親と交流したことだった。昨年秋には、仲間と患者会「トーチの会」を結成した。

 活動を通じて、初めて感染経路など正しい知識を得て、納得した。性交渉でも感染するが、最も多いのが、幼い子どもとの濃厚な接触だ。おむつ替えや、食器共有などウイルスを含む唾液や尿に触れることだという。陽菜ちゃんの妊娠中、長男の食べ残しを食べていたことを思い出した。感染者に近づくだけでは感染しない。

 吉田さんを苦しめていたのは誤った知識だった。

 西日本に住む女性(35)の場合は、今春、先天性サイトメガロウイルス感染症の長女(11か月)が保育園に入る際、周囲の理解を得るのに苦労した。当初、長女だけ別に保育されていた。園側が、ほかの園児への感染を心配したからだ。

 周囲に、母子感染の知識がある医療者はいなかった。夫婦で必死に集めた資料を渡して、説明を繰り返した。

 身近にあるウイルスで、多くは乳幼児期の授乳や集団生活で感染することや、妊婦や胎児の感染予防は重要でも、健康な大人や子どもの感染は、ほぼ症状がなく問題ない点を伝えた。今は、ほかの園児と一緒に過ごす。

 同会代表の渡辺智美さんは「サイトメガロウイルスなど妊婦健診で抗体検査も予防の指導もほとんど行われない感染症は、医療者でも知識が乏しく、支援が遅れている」と指摘する。

 妊婦健診で標準的に検査が行われる感染症には、支援の拠点作りの動きもある。

 佐賀大病院では昨年5月、主に母乳から感染するHTLV―1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)の専門外来を開設した。検査部長で血液内科医の末岡栄三朗さんが、ウイルスについて説明し、感染による病気を発症していないかなどの検査を行う。診療後、臨床心理士の柘植薫さんがカウンセリングで、困っていることや、不安なことを聞く。

 受診した妊婦20人のほぼ全員が、アンケートで「ウイルスに関して相談相手はいない」と答えた。

 柘植さんは、「感染のショックや悲しみを一人で抱えて、適切な情報を得られずに混乱する妊婦も少なくない。安心して気持ちを伝え、情報を整理できる場が必要です」と話している。

トーチの会
 先天性サイトメガロウイルス感染症と、同様の感染症である先天性トキソプラズマ感染症の合同患者会。ホームページ(http://toxo-cmv.org/)では体験談や母子感染のQAを掲載。啓発パンフレットもダウンロードできる。
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