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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

東京オリンピック開催の意外な落とし穴?

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ママの名刺で遊ぶ娘

 2020年のオリンピック開催地が東京に決まりましたね。私は東京都民ですが、オリンピック誘致にはそれほど興味は持っていなかったのですけれど、開催されることに決まった今は、そのころに8歳になっている娘にどんな経験をさせてあげられるだろうと考え始めています。

 五輪招致レースでは終盤で東京電力の福島第一原発の汚染水流出問題が争点となり、開催地の安全性が問われる場面がありました。そこで私が「つっこまれなくて良かったね」と思ったのは、感染症流行の問題です。昨年から風疹の大流行が続いていることについては、過去にも「風疹に備えていますか」「風疹蔓延まんえんは疑いもなく緊急事態」と行政の対策が不十分であることを警告してきました。

風疹の流行に危機感なしか

 風疹の新たな感染者の報告数は今年の6月をピークに減少し、流行の拡大のスピードが落ち着いて来たように見えます。それに伴い、テレビや新聞で報道される頻度も減り、一般の方々の関心や危機感は減っているかもしれません。しかし、昨年10月から全国で生まれている先天性風疹症候群の赤ちゃんは現在までに18人にのぼり、とても悲しいことに今後も増えると予想されます。

 田村厚労相があまり危機感のない発言を繰り返していることで、私は行政に対する信用を失ってしまっていたのですが、今月になって「来年度から風疹抗体検査を全額補助することを厚労省が決定」「在庫が79万本あるのでワクチンの不足は回避されたと厚労省が説明」という報道がなされ、やっぱりがっかりしてしまいました。

 どこからつっこんでいいか分からないくらい本質とずれた対策なのですが、まず、ワクチンの在庫が79万本で「不足回避」と言うとは、ワクチンの必要本数の見積もりが大きく間違っています。世代によっては抗体保有率が低く、ある推計では接種必要者は800万人とも言われています。79万本で足りるという試算は「接種必要者のうち、自主的に接種するのは1割くらいだろう」ということでしょうか。そして、現場から聞こえてくる声は、ワクチンの流通が滞っていて在庫がないため、生殖年齢の女性にワクチン接種を勧めることすらできないといいます。打つべき人が医療機関を訪れているのにワクチンが手元にないことはとてももったいないことです。早く在庫を市場に出してほしいと思います。

大事なのはワクチン助成、集団接種

 行うべきは抗体検査の全額助成ではなくワクチンの助成です。集団の9割が抗体を持っていないと流行の発生を抑えられないのですから、自主的に希望した人だけに接種しても不十分で、行うべきは集団接種です。私の目から見ると「妊娠希望の方は風疹ワクチンを」という啓発はとても活発になされていると思うのですが、それでも現在妊娠して産婦人科を訪れる人の中でちゃんと抗体検査もしくはワクチン接種を受けてから子作りしたという人は残念ながらまれです。妊娠に縁遠い人が自発的にワクチンを打ちにいくことを期待するのはもっと難しいでしょう。抗体があるか分からないまま妊娠した人は、みな不安な妊娠初期をすごしています。妊娠初期に風疹の感染が分かって中絶を選択してしまうという非常に悲しい例もあります。一生懸命に少子化対策について考えても、望んで妊娠した人に中絶を選択させる事態を放置している行政を思うと情けなくて仕方ありません。

 過去記事の繰り返しになりますが、行政の責任においてMMRワクチンの緊急輸入と集団接種を行わなくては風疹の流行は当分起こり続けるでしょう。それをせずに抗体検査の全額助成と希望者のみのワクチン接種で対策をしたふりをしている態度はお為ごかしと言われても仕方ないと思います。費用とワクチンの副作用の最終責任を厚労省が引き受けるべき緊急事態なのに、結果的に自然に流行が沈静化するのを待っている態度にはとても悲しくなります。

先進国として恥ずかしい感染症流行

 今年の流行のピークは過ぎて来たのかもしれませんが、抗体を持たない人が相当数いる以上、また流行は起こるでしょう。それが2020年に起こらない保証はありません。また、風疹以外にもはしかなど先進国として恥ずかしい感染症の流行が過去にも起こっているので、何らかの感染症が蔓延する可能性は十分にあります。(ちなみに2009年には新型インフルエンザが、2011年にはりんご病が、2012年と2013年には風疹が流行し、安心して妊娠できる時期の方が希有けうな状態になっています)

 東京オリンピック開催を喜ぶと共に、世界中で観戦を楽しみにしている人たちに感染症の蔓延でそれを妨げることのないようにパフォーマンスで終わらない感染症対策をお願いしたいと思います。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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7件 のコメント

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風疹のワクチンについて

かおっさん

結婚を機に大阪から都内に越してきて、ニュースで風疹が流行っているからワクチンを打った方がいいと言われているので、いろいろ調べたのですが、私たちが...

結婚を機に大阪から都内に越してきて、
ニュースで風疹が流行っているからワクチンを打った方がいいと言われているので、いろいろ調べたのですが、私たちが住んでる地区ではワクチンの助成が効くのは、妊娠中または妊娠を希望する女性で、男性の場合は、配偶者が妊娠中でないと受けれないような文言で書かれてました。
ワクチンをあたって妊娠するしないという問題ではないと思います。
今までワクチンをうけれなかった方に、ワクチンを打つ権利はあると思います。


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ワクチンも避妊も

hatch

最近、日本の避妊方法が非常に特徴的であることをしり、なぜ他の国と違うのか調べる機会があったのですが、避妊についても保険適応だったり、場合によれば...

最近、日本の避妊方法が非常に特徴的であることをしり、なぜ他の国と違うのか調べる機会があったのですが、避妊についても保険適応だったり、場合によれば無料だったりする国がかなり多いようですね。

ワクチンや避妊など公衆衛生的な分野に予算を使いたがらない国柄は、やはり後進的だなと感じます。

追伸
チメロサールと自閉症なんて、何年前の話しでしょう。思い切り否定されたと思いますが。。。

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全てのワクチンが本当に必要ですか?

らむね

現代では身体に入れるものに関して、医薬品だけでは無く、どんなものにも言えますが不自然なものが増えすぎている様に思います。本当にワクチンなども必要...

現代では身体に入れるものに関して、医薬品だけでは無く、
どんなものにも言えますが不自然なものが増えすぎている様に思います。
本当にワクチンなども必要なのでしょうか?

子供の三種混合ワクチン(今は四種も)の成分
(チメロサールと自閉症発症の因果関係の問題もあやふやのままです)の問題、
ワクチン接種後の乳幼児の死亡事故との因果関係…
沢山の問題があるのに、安心出来る解答が出ていません。

本当にワクチン接種で確実にそれぞれの病気が防げるのでしょうか?

インフルエンザのワクチンは接種しても
「今年は型が違った」と私自身含め、インフルエンザに罹る人を沢山観てきました。

子宮頸がんのワクチンなど、日本人に本当に合っているのでしょうか。
副作用に「失神」と書かれており、実際その様な事になり、
今も苦しんでいる人がいます。
任意、にはなっていますが、説明不足、より受けやすい体制(助成されたり)を
作りすぎてはいないでしょうか。
疾病の予防にまで不自然なものを身体に入れなければいけないのでは
本末転倒な気もします。

「先進国だから」増えている感染症が恥ずかしい…という文章には
ワクチンキャンペーンの様な印象を受け、違和感を感じました。

汚染水問題が解決していないのに諸外国の未来のある若者達を
入国させる事の方が恥ずかしく思います。

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