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一緒に学ぼう 社会保障のABC

yomiDr.記事アーカイブ

国民皆保険・皆年金(15)国保の保険料

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 生活保護を受けるほどではなくても、所得が低い人にとって、国民健康保険の保険料を納めるのは大変なことです。しかし、保険料を納めてもらわなくては、社会保険方式による「国民皆保険」は実現できません。低所得者の保険料負担は、どういう仕組みにしたのでしょうか。



保険料の支払い方

 まず、制度発足当時の保険料の支払い方を見てみたいと思います。

 保険料は、その人の所得に応じて負担してもらうことが望ましいと考えられています。ですが、会社員などが加入する被用者保険とは異なり、農民や自営業者などが多い国民健康保険の場合は、被保険者(制度の対象者)の所得を正確に把握するのは難しいと考えられました。また、被保険者間の所得格差も大きかったため、「所得」にだけ着目して保険料を求めると、一部の人の負担が重くなり過ぎる恐れもあると考えられました。

 そこで、国民健康保険の保険料は、被保険者の世帯の所得や資産、家族構成などを考慮して決めることにし、実際にどういうやり方で徴収するかは、保険の運営者である市町村が条例によって定めることになりました。

 各世帯に賦課される保険料は、基本的に、被保険者の負担能力に応じて課される「応能分」と、受益(利益を受けること)に応じて等しく被保険者や世帯に課される「応益分」とに分けられます。

 「応能分」はさらに、所得に応じて負担を求める「所得割」と、資産に応じて負担を求める「資産割」とに分けられます。「応益分」は、世帯の被保険者の人数に応じて負担を求める「均等割」(注:国民健康保険には被扶養者という概念がなく一人ひとりが被保険者になるため、子供も含め、世帯の人数が多いほど均等割の金額も増えていきます)と、世帯ごとに負担を求める「平等割」(注:世帯ごとに課せられるため、世帯に何人いても平等割の金額は変わりません)とに分けられます。これら4種類をどう組み合わせるかは市町村が決めますが、所得割と均等割が入っている必要があります。整理すると、

  • その世帯の被保険者の所得に応じた「所得割額」

  • その世帯の被保険者の資産に応じた「資産割額」

  • その世帯の被保険者数に応じた「被保険者均等割額」

  • その世帯、1世帯ごとに応じた「世帯別平等割額」

<応能分>

<応能分>

<応益分>

<応益分>

 があり、その合算額を世帯主が納めることとされました。保険料ではなく、保険税として徴収する場合は(税金という名目にした方が集めやすいからと、国民健康保険税として徴収する自治体も多くありました)、当時のお金で、上限額が年間5万円と定められました。



保険料の軽減

 応能分は、所得が低かったり、資産がなかったりすれば発生しませんが、応益分、つまり均等割や平等割は、所得の有無にかかわらず発生するため、低所得者には負担が重いといえます。前回ご紹介したように、1958年(昭和33年)に新法(新・国民健康保険法)が制定された当初は、貧困のため市町村民税を免除されている低所得者は、国民健康保険の適用除外とされたため、保険料納付義務は発生しませんでした。しかし、適用除外とした条例準則は、1961年(昭和36年)3月23日、つまり国民皆保険が達成する直前に改められため、低所得者でも保険料の納付義務が生じました。負担が重いことはわかった上で低所得者にも納付を求めた背景には、「保険制度である以上は、応能分はともかく、応益分ぐらいは負担してもらおう」「国民皆保険の理念を達成するためには、低所得者であっても保険料の負担はしてもらおう」という考えがあったからではないかと推察されます。

 しかしながら、実際に保険料の徴収業務にあたる市町村からは、「低所得者の負担が重くて徴収できない」という声が多く寄せられるようになりました。1962年(昭和37年)11月に全国町村長大会が開催された際の「国民健康保険制度の改善に関する要望」には、「国民健康保険は、被保険者の(国保)税負担においても、保険者たる町村の財政負担においても、もはやその限界に達している。国民の半数を擁する国民健康保険制度の充実なくしては国民皆保険の完成はなく、その大半が低所得階層によって構成されている国民健康保険制度は、社会保障の充実を目標にこれが抜本的改革を行うべきであるが、当面早急に改善を要する項目の実現を要望する」として、その一項目に、「低所得階層に対しては国庫負担による保険税の軽減措置を講ずること」が挙げられています(「国民健康保険五十年史」=1989年、ぎょうせい=より抜粋)。こうした状況を受け、1963年(昭和38年)に、保険料軽減制度が誕生しました。

 軽減対象となるのは、応益分(均等割、平等割)部分で、所得に応じて軽減の幅が決められ、その分は国の税金で補てんすることになりました。



負担を巡る議論

 ところで、国民健康保険の低所得者の負担に関しては、現在でも様々な議論があります。生活保護受給者も国民健康保険の被保険者にして、その人たちも含め、低所得者の保険料の軽減割合をもっと高めるべき(現在の軽減割合は最高で7割)とか、全額免除も取り入れるべきだとの意見があります。一方で、国民健康保険も社会保険の仕組みである以上、全額免除は適当ではないといった意見も聞かれます。

 なお、国民年金の場合は、低所得者の保険料に「全額免除」がありますが、国民健康保険は、軽減はあっても、所得に着目した全額免除の仕組みはありません。年金の場合は、免除者と非免除者の間で年金給付に差がつけられますが(ただし、免除者が年金を一切もらえないということではなく、免除の手続きさえしていれば、その期間に応じて、現在は、基礎年金のうち国庫負担分である2分の1は受け取ることができます)、国民健康保険の場合は、保険料を払っていないからといって、国庫負担分のみの医療サービスを行うわけにもいかないからです。

 いずれにしても、低所得者の保険料負担をどうするかは、誰が、どのような負担をして制度を支えるのかといった制度の根幹部分に関わるだけに、昔も今も、重要なテーマだといえます。最近の社会保障制度改革の議論では、そもそも、「低所得者とは誰のことを指すのか」という議論も起きています。所得格差も広がるなか、<低所得者の保険料負担をどうするか>について、社会保障制度はもちろん、税制も含めた幅広い観点からの議論が必要だと思います。

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inokuma

猪熊律子(いのくま・りつこ)
読売新聞東京本社社会保障部デスク。 1985年、読売新聞社に入社。地方部、生活情報部などを経て、2000年から社会保障部に在籍。1998~99年、フルブライト奨学生兼読売新聞海外留学生として、米スタンフォード大学のジャーナリスト向けプログラム「ジョン・エス・ナイト・フェローシップ」に留学。2009年、早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了(社会保障法)。好きな物:ワイン、映画、旅、歌など。著書に「社会保障のグランドデザイン~記者の眼でとらえた『生活保障』構築への新たな視点」(中央法規)など。

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