元ボクサー カシアス内藤さん 64
一病息災
[元ボクサー カシアス内藤さん]咽頭がん(5)「決着」まで 一日一日生ききる
E&Jカシアス・ボクシングジムは、11人のプロ選手を抱えるまでになった。長男の内藤律樹選手(21)は、デビュー以来の連勝記録を7に伸ばしている。
がんとの闘いは9年を超えた。「余命数か月」から「ドロー(引き分け)」に持ち込んだ闘いの防衛戦は、今も続く。医師は「がんとうまく折りあいがついている」と言う。
深夜、選手や練習生たちを送り出し、ジムの掃除をすませると、大きな鏡に向かい、ファイティングポーズをとる。「1日が終わった」と思う。自宅で眠りにつく前も、もう一度、「今日もやるべきことはやった」と振り返る。
リングネームの「カシアス内藤」は、モハメド・アリの旧名「カシアス・クレイ」にあやかった。世界チャンピオンにはならなかったが、「自分に決着がつくまで」挑戦することだけはやめない。
「まだ、がんにKOされずにいる。その日その日を生ききっていきたい」
ボクシングとがんとの違いは何か、と考える。ボクシングは敵が見える闘いだ。自分で判断し、攻めていった結果、倒されたのなら仕方ない。だが、がんは目に映らない相手。「見えないものに向かっていくには、別の勇気が必要だ」。そんなふうに思えてならない。(文・鈴木敦秋、写真・佐々木紀明)
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