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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

卵子の時間を止められるようになりましたが…

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動物が大好きな娘。興味のあるものだけどんどん覚えます

 週末に友人たちと子供たちをハープとパーカッションのコンサートに連れていきました。普段は多動な私の娘ですが、生演奏を食い入るように聴き入っていて、連れて行って良かったと思いました。子供用のコンサートだったので、スタジオジブリの曲が多く、そろそろDVDでとなりのトトロくらいは見せてもいいのかなあと悩んでいます。何と言ってもうちにはDVDプレーヤーがないので、買わないといけないものですから。今は朝に1時間くらいEテレを見せています。

 先週、未受精卵の卵子凍結に日本生殖医学会が指針を作成するという報道がありました。

未婚女性も卵子保存、学会容認へ…指針案で

 日本生殖医学会(理事長・吉村泰典慶応大産婦人科教授)は23日、健康な未婚の成人女性が、 将来の出産に備えるために行う卵子の凍結保存を容認する指針案をまとめた。

 晩婚化で出産年齢が遅くなっている現状を踏まえ、今後、実施施設が増えることが予想されることから、一定の歯止めとなる指針案を作成したとしている。

 卵子の凍結保存については、不妊治療を目的とした夫婦と、治療で卵巣機能が失われる恐れのあるがん患者にのみ、日本産科婦人科学会の指針などで認められているが、未婚の女性に対する見解が示されたのは初めて。

 指針案では、健康な女性の卵子の凍結保存を認めた上で、採卵時の年齢が40歳以上は推奨できないと定めた。凍結した卵子を解凍して受精させ、子宮に戻す年齢については、高齢出産のリスクを避けるため45歳以上は勧めない。

(2013年8月24日 読売新聞)


 少し前に、火曜日にレギュラー出演しているフジテレビの「とくダネ!」という番組で未受精卵の卵子凍結について取り上げた際に、卵子凍結を行っている会社の方のお話を詳しく聞く機会がありました。以前は未受精卵を凍結して解凍しても受精する能力を失ってしまっていたものが、現在は顕微授精で受精させることが可能になってきているようです。「未受精卵の凍結もついに実用化となったか。でも、近いうちに学会がガイドラインを作成しないと、いろんな施設が独自ルールでバラバラに行っているのは困る」と思ったところだったので、私にとってはとてもタイムリーな話題でした。

凍結の技術進歩

 引用した記事にあるように、もともとは治療で卵巣機能が失われる恐れのあるがん患者さんのために行われていました。研修医の頃、若い婦人科がんの患者さんが、手術をしてみると卵巣を2つとも切除しないといけないほど広がっていたため、その方は治療のため妊娠する能力を失ってしまったのですが、当時は未受精卵の卵子凍結の技術が不十分だったため、卵子を凍結しておくことはかないませんでした。技術が実用化されてきていることは非常に喜ばしいことだと思います(ちなみに、既婚のがん患者さんでも離婚しないとは限らないので、未受精卵を凍結する方がさまざまな状況に対応できるとのことです。そういう視点は私に欠けていました!)。

 技術があって需要があれば実行されるのが常ですから、がん患者ではない独身女性で凍結する人も増えて来ているようです。精子も卵子も老化するため、妊娠には生物学的に適齢期があります。しかし、男性が専業主婦を養えるほど収入と雇用が安定しておらず、女性が子供を産んで働きにくいという社会構造のため、妊娠を先送りせざるをえない女性または夫婦が後を絶たないのが現状です。この技術が広まると、妊娠をますます先送りにする女性や夫婦が増えることを危惧する声もありますが、社会構造を変えなければ根本的な解決にはならないでしょう。

 そもそも「先送りにする」と言っても未受精卵凍結の技術は「将来自分の赤ちゃんを抱っこできる」ことを保証するものではありません。いくつ保存しておけば赤ちゃんを抱けるかは、個人によって差がありますが、35歳で約10個、40歳で約50個だそうです。排卵誘発と採卵には卵巣過剰刺激症候群などさまざまなリスクがあり、年齢とともに排卵誘発への反応は衰えて来ますから、学会の「40歳以上は推奨しない」という方針は妥当だと思います。45歳以上で子宮に戻すことを勧めないのも同意です。

妥協で産まなくてもよくなる?

 独身女性の未受精卵凍結は「保証」というよりは「保険」「心の安定剤」に近いと思います。私も5年前にあったら凍結していたんじゃないかなと思います。妊娠可能年齢に限りがあることを知りすぎていただけに、「もうこの男の子供でも産むしかしょうがないかなあ」と妥協しそうになったことも複数回あり、やはり妥協しなくて良かったと心から思うので(いきなりの暴露ですみません)、そういう女性の気の迷いを思いとどめるにはいい技術だと思います。子供は産んだらおなかには戻せないし、子供自身には何の責任もありません。卵子凍結よりも早く産む方がいいという一般論には同意しますが、早く産むのが常に正解とは全く限らないのです。

 未受精卵の凍結に関して、生殖医療専門医である男性上司と話していたところ、「そんなものは不自然だ!」と一刀両断されました。体外受精まではしているのに、未受精卵の凍結だけ不自然だというのはおかしな話だと私は思うのですが、もしかしたら、女性が卵子老化という運命から少し解放されてより多様性に富んだ人生選択をするということに抵抗を覚える人は少なくないかもしれません。でも、私としては精子の凍結は技術的にすでに可能だったし、妊娠可能年齢という男女格差を埋めて本質的に何が悪いのかと思います。

 みなさんも身近な人と未受精卵の凍結について議論してみてはいかがでしょうか。お互いの男女観も見えてくると思います。

宋美玄さんが講師を務めたヨミドクター会員セミナー「ゆる出産、ゆる子育て」の詳しい内容が、イベント・フォーラムコーナーで紹介されてい ます。記事はこちらから

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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5件 のコメント

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ハープとパーカッションのコンサート!

えりゅ

多分、同じコンサートに、1歳の息子を連れて行っておりました!私は午前10時の回でしたが、ひょっとしたら先生と銀座ですれ違っていたかもしれません♪...

多分、同じコンサートに、1歳の息子を連れて行っておりました!
私は午前10時の回でしたが、ひょっとしたら先生と銀座ですれ違っていたかもしれません♪

ところで、「早く産むのが常に正解とは全く限らない」には同意です。
女性にとって、望まぬ結婚や妊娠ほど、自分の人生の選択肢を狭めることはないと考えています。

しかし、婚期が遅れているのは、男性が妊娠適齢期について知らないからだと思います。
お付き合いしている女性が30歳を過ぎているのに結婚を言い出さないのは、男性の知識不足によるものだと思うのですが。

女性側は、普通に日本で暮らしている限り、一般常識として何となく知ってしまうことではないでしょうか。
私は中学生のときには知っていましたよ!
女子トークでは、男女産み分け法の話までしてたし、中学のときからすでに「出産したら仕事はどうするのか」なんて話題も出てました。
そのときは、「差別につながるから、25歳までに結婚&妊娠したほうがいいという話題はタブーらしいよ」なんてことも話していましたが、それで情報が狭まっていたとしたら、逆効果だったということでしょうかね・・・

「卵子凍結」は、選択肢としてはアリだと思います。
しかし、性欲減退している日本男子のセックスレスを増長させないか心配です・・・本当に、冗談ではなく。
妊娠に至る過程を楽しめない夫婦なんて、個人的にはありえません!
先生も同意していただけると信じています(笑)

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卵子だけの問題じゃない

キャサリン

卵子凍結保存というけれど、運良く受精したとしても女性の体の中で、子宮内膜が十分な厚さになっていなければ無事着床しませんよね。採卵して凍結保存さえ...

卵子凍結保存というけれど、運良く受精したとしても女性の体の中で、子宮内膜が十分な厚さになっていなければ
無事着床しませんよね。
採卵して凍結保存さえすれば、いつでも欲しいときに妊娠できると勘違いしている人が多いのでは?
人それぞれ事情はあるにしても、やっぱり妊娠出産は年齢が若い方が良いと思います。

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卵子凍結

けい

私自身晩婚で子供二人を高齢出産で産んだので、卵子凍結と言う話題に関心があります。子供は適齢期に産んだ方が絶対いいに決まってます。ただ、そうしたく...

私自身晩婚で子供二人を高齢出産で産んだので、卵子凍結と言う話題に関心があります。子供は適齢期に産んだ方が絶対いいに決まってます。ただ、そうしたくてもできない状況は多々あるのでしょう。高齢になると卵子が老化するという現実をしらない人たちが今まで多すぎたのだと思います。卵子凍結については賛否両方あると思いますが、こうゆう事を世間に知らせて、自分はいつでも産めるという間違った知識がなくなる事を望みます。

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