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[伊勢正三さん]渓流釣り 風と遊び曲作る

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「毛バリを作る時は魚にどう見えるかを考える。虫に似せるだけじゃだめだし、投げた時にどこに落ちたか見えるようにもしたい。奥が深い」=鷹見安浩撮影

 春から秋までが渓流釣りのシーズン。解禁の時期が近づくと、自作の毛バリを試したくてそわそわする。この春も「川にあいさつにでかけた」。スケジュールが空いたらすぐ伊豆などへ行けるよう愛車の四駆に釣り道具を積む。

 「3月の第1週に出る虫を模して作った毛バリで、あの岩のところにいるあいつを釣りたい。2年越しに狙った魚もいたんです」。少年のような目で楽しさを語る。

 虫に似せた毛バリで釣るフライフィッシングに出会ったのは、30代の終わりのころだ。当時、小さかった娘と一緒に川へ遊びに行くため、何気なく入った釣具店で毛バリに出会った。

 目の前が海という環境に育ち、子ども時代は大人に交じって海釣りをしていた。でも、毛バリを見たのは初めて。昆虫採集好きだった昔を思い出し、「一番簡単で安いセット」を買って川に出かけた。「釣った魚を入れる水槽まで持っていったのに、『パパ、お魚釣れないね』なんて言われて」

 いったん、釣りはやめたが、43歳で移籍したレコード会社に、釣り好きのスタッフがいた。誕生祝いに毛バリを作るキットを贈られ、見ようみまねで作って、それを川で使ったら、「生まれて初めてヤマメが釣れた。今考えると下手だったんだけど」。

 以来、国内外で釣っている。ニュージーランドで自作の毛バリを使ったら、あまりに釣れるので現地の釣りのカレンダーにその毛バリが絵入りで紹介されたほどの達人だ。でも、「魚をたくさん釣るのが目的じゃない」という。「日常の人工的な環境から離れて、きれいな自然に身を置いて風と遊ぶ。自分が活性化するための切り替えです」。行きの車の中や川で待っている時間に曲が浮かぶこともある。「きざに言うと、僕にとっては釣りも全部含めて音楽だから」

 1970年代に「かぐや姫」「風」という二つのグループで活動。「なごり雪」や「22歳の別れ」など数々のヒット曲を世に送り出した。ソロになって、自身のライブを続ける一方、ほかのアーティストとも一緒に活動している。

 釣りを始めて、見える景色が違ってきたという。天然のヤマメがすめる川は、今の日本では数少ない。豊かな自然が減ったことを身をもって感じる。「人間が便利を追求して、自然界の大きな循環を壊しているんじゃないか。それで本当に幸せが生み出されたのか、大いなる疑問」

 フライフィッシングは、道具にお金がかかる「大人の釣り」だ。60歳を過ぎ「みえを張らずに、川に行く時は折り畳みのつえを使っている」と笑う。でも、大人だからこそ、釣ったヤマメがここまで育つ大変さ、貴重さがわかる。「それも含めて『やった』と思うわけですよ。この魚に出会えた喜び。釣れたというのとはちょっと違う」。大いなる自然と愚かでせつない人の営みと。そんな思いを「夏ヤマメ」「緑の季節」といった曲にした。

 魚の気持ちを読み、風と遊ぶひとときがまた新たな名曲を生むに違いない。(大森亜紀)

 いせ・しょうぞう シンガー・ソングライター、ギタリスト。1951年大分県津久見市生まれ。高校の先輩だった南こうせつさんらと「かぐや姫」で活動。「風」も結成し、80年代にソロに。8月31日と9月1日には、長野県軽井沢町で「伊勢正三Summer Live2013」を行う。

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