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「卵子提供」告知に悩む親

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社会の受け止め不安

 民間不妊治療クリニックで作る「JISART(ジスアート=日本生殖補助医療標準化機関)」(大阪市)が、第三者からの卵子提供で生まれた子の親を対象に、事実の告知などに関する初の調査を行った。JISARTは、卵子提供の事実を子どもに伝えることを治療前の審査段階で求めているが、親にはためらいの気持ちも生じていた。告知には社会の理解を深める必要がある。

 調査はJISARTのフォローアップ部会が、2歳児を持つ3組の夫婦と、0歳児を持つ1組の夫婦の計8人(平均年齢は父親37・5歳、母親37・3歳)に行った。うち2家族は書面で、残り2組は書面と面接調査でアンケートに答えた。調査は子どもが成人するまで定期的に行う計画だ。

 その結果、「子どもは卵子提供によって生まれたことを知る権利がある」について、「とてもそう思う」と回答したのが4人、「半分くらいそう思う」が1人だった。「親は子どもの遺伝的つながりに正直であるべきだ」の問いには、「半分くらいそう思う」を含めると半数が肯定的にとらえており、権利の重要性について理解する傾向にあった。

 さらに「子どもが卵子提供のことを知ったら、子どもとの関係は壊れる可能性がある」「卵子提供者との接触は有害になる可能性がある」について、「全くそう思わない」が半数以上だった。

 一方、今後、告知が子どもにどのような影響を与えるかについては、戸惑いも見られた。「卵子提供者を特定する情報を知ることが、子どもにとって最も利益になる」という質問には、半数以上が「わからない」と回答。逆に、「遺伝的つながりを告知されないことが最も利益になる」という質問にも7人が「わからない」とした。

 第三者の関わる生殖補助医療では、匿名の第三者による精子提供が60年以上前から行われているが、当初は、子どもへの告知は重要視されておらず、伝えない親も多かった。今回の調査では、伝えたいとの意識を持っていても、実際の告知には、社会の理解が欠かせないことが見えてきた。

 調査した国立成育医療研究センター研究所の小泉智恵研究員によると、面接調査では「事実を聞いた子どもが周囲に話し、受け入れられるか心配」「親子関係の法律も整っていないのに子どもを守れるか」などの懸念の声が聞かれた。

 小泉研究員は「親は子どもの知る権利を理解し、伝えたい気持ちはあるが、社会で受け入れられるか不安を抱えている。こうした選択をした個人の責任だと突き放すのではなく、社会で様々な家族を受け入れる土壌を作ることが必要」と話す。(医療部 酒井麻里子)

生殖医療 親子関係 法整備進まず

 厚生労働省の審議会は2003年、卵子提供など非配偶者間の生殖補助医療を条件付きで認める一方、ルールが整備されるまでは実施すべきではないとの報告書をまとめた。しかし、その後も法律などは作られないまま、国内外で卵子提供が広がっている。

 民法の解釈で、母子関係は妊娠・出産の事実で生じるとされているが、産んだ母と子どもに遺伝的なつながりがないことは想定していない。法務省の法制審議会は同年、「出産した女性が母親」と明確化する法整備の中間試案を出したが、法案化には至っていない。

海外で卵子提供 告知実態は不明

 国内での卵子提供の例はまだわずかだが、日本人が海外で卵子提供を受けて妊娠・出産に至ったケースは多い。読売新聞が昨年、全国の総合周産期母子医療センターなどに行ったアンケート調査では、過去5年間に少なくとも130人が誕生していたが、告知の実態は分かっていない。海外の場合、個人であっせん業者に申し込むため、周囲に相談できずに悩みを抱えるケースもある。

 不妊治療施設「IVFなんばクリニック」(大阪市)の看護師の富谷友枝さんは昨年9月、アメリカで匿名の第三者から卵子提供を受けた女性3人(出産年齢47~49歳)への調査結果を発表した。1人は告知を前向きに考えていたが、「妊娠してから告知の重要性について知った。親からの輸血など必要に迫られれば伝えるが、できれば夫婦で墓場まで持って行く」などとためらう意見が聞かれた。

「なぜ早く教えてくれなかった」

提供精子で出生39歳男性

 横浜市の医師、加藤英明さん(39)は、11年前に第三者の精子で生まれたことを知った。医学部5年生だった29歳のとき、白血球を調べる実習で両親と自らの血液を調べ、父と遺伝的つながりがないことがわかった。母に伝えると、父が無精子症で慶応大で精子提供を受けたと告げられた。家族の思い出が崩れ落ちる感覚に襲われた。「自分は何者か知りたい」と、提供者となった同大医学部生の名簿から父親を捜し始めた。

 「どうしてもっと早く教えてくれなかったのか」。出自を知る権利の大切さを訴えるため、2005年、精子提供で生まれた当事者の会を設立。今月8日に大分県で開かれた日本受精着床学会では、国内で行われている卵子提供について、「民間クリニックがどこまで情報を保管し続け、告知まで責任を持てるのか」と疑問を投げかけた。

 加藤さんらが声を上げて8年余り。精子提供で子どもを持った親同士が悩みを共有する場もでき始めた。加藤さんは「第三者の精子や卵子を使った不妊治療を選ぶなら、子どもに事実を告知するのが大前提で、告知に悩む親を支援することが重要だ」と話す。


第三者からの卵子提供
 第三者の女性の卵子と夫の精子を体外受精させ、妻の体内に移植し、妊娠させる。出産年齢の高齢化もあり、アメリカやタイなどに渡航し、卵子バンクから第三者の卵子提供を受けるケースも増えている。

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JISART
 全国の民間不妊治療クリニック26施設で作る。提供を受けられる女性の年齢や、提供者の情報を80年間保存するなどの独自の指針を2008年に定め、第三者の卵子を使った体外受精を始めた。早発閉経など自分の卵子で妊娠できない女性が対象で、夫婦は姉妹や友人などの提供者を自分で探して治療を受ける。現在4施設が実施。7月末現在、13人が誕生し、1人が妊娠中。

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