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宋美玄のママライフ実況中継

コラム

帝王切開はなぜ増えているの

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ショートヘアになってさっぱりした娘

 生まれてこのかた伸ばし続けていた娘の髪の毛を先週初めて切りました。娘は髪の毛が細くて少ない方で、なかなか伸びなかったのですが、胎毛筆を作るべく頑張って伸ばしていたのです。前髪をピンで留めていたのですが、麦粒腫(ものもらい)ができてしまったのです。伸びた前髪が原因である可能性も捨てきれないため、太い毛筆は諦めて、かな用の細い筆で手を打つことにし、即刻散髪しました。私が風呂場で適当に切ったのですが、いい感じのショートヘアになりました。

 先週、次のようなニュースが流れました。

帝王切開、20年で倍増 背景に訴訟問題

朝日新聞デジタル 8月11日(日)8時57分配信

 

 【岡崎明子】帝王切開で出産する人の割合が約19%と、この20年でほぼ倍増している。厚生労働省のデータでわかった。日本産婦人科医会の詳しい統計分析でも2011年に18.6%と、世界保健機関(WHO)が推奨する目安を超えていた。自然分娩ぶんべんでは予期せぬ事故が起こることもあり、医療訴訟などを避けたい医療者側の思惑が背景にありそうだ。

 厚労省による医療機関へのサンプル調査によると、帝王切開の割合は、1990年の10.0%、02年の15.2%、11年は19.2%と増え続けている。

 鈴鹿医療科学大学の石川薫特任教授らは、同医会による07~11年の出産に関する全国データを初めて分析した。都道府県別では、最高は23.5%の栃木県で、最低の秋田県は11.8%と2倍の差があった。WHOは、母子の健康リスクを避ける目安として、10~15%に抑えるよう示しているが、43都道府県でこれを超えていた。帝王切開率と周産期死亡率には相関関係はなかった。


 この記事を最後まで読むと、帝王切開率がこの20年間で増加し続け2倍になったという事実と、医療事故などのトラブルや訴訟を回避したいという医師の思惑が原因ではないかという推測が書かれています。記事として読むと記者の推測も真実かのように思ってしまうのが常ですが、産婦人科医歴13年目の私が思う帝王切開率上昇の理由を述べたいと思います。

母体のリスクは増えるが

 帝王切開で出産する理由には、帝王切開でないと出産が不可能な絶対的理由(前置胎盤や赤ちゃんが横向きであるなど)と、必ずしも帝王切開でなくても出産できるかもしれず医師によっては帝王切開を選ばないかもしれない相対的理由(逆子、双子、赤ちゃんの心拍異常、難産など)があり、相対的理由がある場合は母子の状態と出産の進み具合の兼ね合いで、いつでも帝王切開に切り替えられるような体制で管理します。帝王切開率が急増したということは、相対的な理由がある場合に帝王切開が選ばれやすくなったことが大きく影響していると思われます。

 それには妊婦側がそれを求めるケースと医療側の事情で帝王切開のハードルが低くなっているケースの両方があります。妊婦側が帝王切開を希望するケースが増えている背景には初産年齢が高くなったことや、不妊治療の末にやっとできた大事な子(「貴重児」などと呼ばれることもあります。赤ちゃんは皆貴重な存在だと思うのですが)であるため、あまり無理をせずに子どもの安全を重視したいと考える人が増えたことがあると思います。以前の記事にも書きましたが、帝王切開は経膣分娩けいちつぶんべんに比べて母体が負うリスクは増えるのですが、そこを誤解している人も少なくないようです。

医療資源の危機的不足が影響

 医療側の事情に原因がある場合、記事にあるような「訴訟を恐れて」というよりも、医療体制の問題の方が大きいと思います。多くの産院では365日24時間体制で医師と助産師が従事していますが、帝王切開をするのに必要な産科医2人が365日24時間体制でいる病院は非常に限られています。ましてや麻酔科医と新生児科医も常時いる体制の病院が日本にいくつあるでしょうか。これは医療資源(医療のヒト・モノ・カネ)がこの10年で危機的に不足して来たことも大いに影響しています。

 そうなると双子や前回の出産が帝王切開だったケース(VBAC:Vaginal Birth After Caesarean Sectionといいます)のようにリスクの高いケースを経膣分娩させられる施設はほとんどなくなりますし、出産が長引く症例や赤ちゃんの心拍パターンが思わしくない例では、粘らずに夜間帯や週末に入る前に帝王切開をしてしまおうという風になってしまっている施設は少なくないと思います。医療が手を出さない「自然出産」を安全に行うには、万全の体制で見守る十分な人員が必要なのです。

 万全の体制があれば経膣分娩をチャレンジできたかもしれない、完遂できたかもしれない妊婦さんが様々な理由で帝王切開で出産せざるを得なくなってしまうことは、仕方ないと思う反面、歯がゆくも思います。それと同時に、現在のように浅く広く産科医が配置されている医療体制でここまで母子の安全が保たれているのは帝王切開のおかげと言えなくはないと思います。外国に多いバースセンター(年間何千人も出産する大きな施設に医者も妊婦も集めてしまう体制)にすればいいという意見もありますが、アクセスは悪くなります。

 引用した記事には、最後に「可能な限り母親の産む力を引き出すのが望ましい」というある産科医の先生の言葉が書かれていました。私も心からそう思いますが、そのためにはゆったりと余裕のある医療資源が必要であることも併せて知ってもらいたいと思います。

 最後に、私たち産科医が単に「訴訟を恐れて」妊婦さんを帝王切開で出産するよう誘導しているのではないことをもう一度強調したいと思います。

宋美玄さんが講師を務めたヨミドクター会員セミナー「ゆる出産、ゆる子育て」の詳しい内容が、イベント・フォーラムコーナーで紹介されてい ます。記事はこちらから

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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8件 のコメント

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医療資源の質と量と人手の問題

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受。

明確な答えのない問題なので難しいですね。必要でも帝王切開ができていなかった時期があって、それに対して産婦人科医の増員という方策があったのだと思い...

明確な答えのない問題なので難しいですね。

必要でも帝王切開ができていなかった時期があって、それに対して産婦人科医の増員という方策があったのだと思います。
20倍に増えた帝王切開について要素分解して考えてやる必要があると思います。
勿論、不要な帝王切開も世の中にはあることでしょう。

休日や夜間の帝王切開は人手の確保が難しいので、自然分娩から切り替えてしまうのもある程度合理的です。(他科医の手術手伝いも認めればいいと思います。)
土日も含めて日勤帯のようにシフトを組んでしまってもいいとは思いますが、社会的な側面もあって、なかなか難しいでしょう。

特に医療過疎地について言えることですが、中、高リスク患者を大規模施設に集約することは大事だと思います。
医療従事者は人間であって、コマではないので、疲れますし、能力も一様ではありません。
また、時に患者とトラブルが発生することもあるでしょう。
となると、守りたいのが地域の医療なのか、地域の住民の健康なのかでアプローチが違うことがわかります。
集約施設への移動や宿泊のインフラまで含めて考えてあげた方が良いと思います。

その辺の患者のトリアージを地域の先生やコメディカルの方がやればいいと思います。
CT、MRI、超音波のデータも遅れますし、4Kなどのリアル画像もケーブル回線であればほぼリアルタイムで送ることはできるので、その場で相談することも理論的には可能です。
(勿論、リアルタイムでなくても、一定時間の映像を送って、電話で相談すればいいだけです。)
実際、救命士さんによる超音波画像の描出などやられている地域もあるので、助産師さんや看護師さんが超音波を取って、センターの産婦人科医が診断するのに問題無いでしょう。

願望ではない現実的な対応が一部分野や地域の医療崩壊を防ぐと思います。

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帝王切開賛成、何が問題なんでしょうか?

娘の母

私の考えはタイトルの通りです。もう25年も前になりますが、その当時私は自然分娩にこだわっていた為、難産でしたが頑張って自然分娩で産みました。その...

私の考えはタイトルの通りです。

もう25年も前になりますが、その当時私は自然分娩にこだわっていた為、難産でしたが頑張って自然分娩で産みました。

その際、かなり産道をそれもメスで切開され、たくさん縫合しました。医者が下手だったせい?で、傷痕が何年も痛み、膣もゆるんでしまいました。その後二人目は産道を切開することなく出産できました。

骨盤底の筋肉をひきしめる運動を今でも定期的に行なっていますが私の場合効果は無く、今では時々尿漏れも起きます。もちろん夜の夫婦生活も出産前の様にはなりません。そのときの縫合が下手だったと思ってます。

初産の時、なんであんなにも自然分娩にこだわったのか。今となっては、知識の少なかった愚かな自分を責めるだけです。

私は結婚を目前の二人の娘の母です。娘達には私のような辛い思いをさせたくありません。娘たちが出産の時には帝王切開を迷わず薦めるつもりです。もちろん強制はしません、本人の希望によります。

自然分娩で、出産後こんな状態になるとは考えもおよばず、後悔の念が事あるごとに頭に浮かびます。

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帝王切開への理解不足

さんちゃん

私も3年前に帝王切開で長男を出産しました。外回転を試みても逆子が治らず予定帝王切開になったのですが、その時は子どもの安全が一番と何の抵抗もなく状...

私も3年前に帝王切開で長男を出産しました。
外回転を試みても逆子が治らず予定帝王切開になったのですが、その時は子どもの安全が一番と何の抵抗もなく状況を受け入れました。
しかし出産後、子どもの発育で気になることがあり、数ヶ月は通院も必要でした。

予定帝王切開だと母体の負担を小さくするために自然分娩の予定日よりも2週間ほど早くに子どもを出すことになると思うのですが、そのせいで子どもがその後の発育に問題ない状態になる前に無理矢理出してしまったのではないかと、通院がなくなるまでよく悔やんで涙しました。

私自身も帝王切開の傷口が化膿して、脚が痺れるなど大変でしたが、自然分娩しか経験していない義母の目には、義姉が何の問題もなく帝王切開で出産したこともあってか、大げさに痛がってるだけにしか映らず、病院に行くのを嫌がられるなど嫌な思いもしました。

私も義母も帝王切開に対して理解不足でしたし、手術に関する説明もほぼなしでいろんな書類にサインを求められるばかりで不安なまま手術室に入りました。もう少し疑問や不安を関係者に聞ける環境があったなら色々違ったかなと思います。

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