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いのちに優しく いまづ医師漢方ブログ

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マドセンさんが教えてくれた採血方法

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 わたしが医師になって1年目、25年前の春に出会った患者さんの話です。その方は、食道がんの術後で、糖尿病と難治性の感染症にもかかっていた70歳を超えた老婦人でした。当時では珍しく髪を紫色に染め、ひとり個室に入院されておいででした。

 彼女の名前はマドセンさんといい、デンマークの方でした。入院期間が長く、病棟の看護師さんが声をかけても笑顔ひとつ見せないために、「気むずかしい人」という評判でした。病室に訪れる人はなく、いつも個室の中でひとり本を読んでいらっしゃいました。

 のどを摘出したため声を失っていましたので、わたしが初めて採血のために静かな部屋の中へ入ったとき、やせ細った顔に大きな目がキラリと光り、すこし緊張したことを覚えています。

 当時、フレッシュマンだったわたしの一番の仕事は、採血と点滴の確保でした。学生時代には練習したことがなく、技術を実地で学ぶしかありません。注射針を血管にうまく刺す技術は難しく、点滴だけで数時間がかりだったこともあります。1度でうまく採血ができたときは、心の中で「やった!」と自信がつきましたし、失敗したときには心底がっかりする毎日でした。

 若い男性は血管が発達しているので採血が容易ですが、ぽっちゃりした女性は血管がみつかりにくいものです。マドセンさんは、それまでの治療の歴史を語るかのように腕にはたくさんの注射の痕があり、血管が硬くなり皮膚も黒ずんで、採血をするための血管が見つかりにくい「フレッシュマン泣かせ」の患者さんでした。しかし、そんな「フレッシュマン泣かせ」のマドセンさんは、治療のためには毎日、採血と点滴が欠かせないのです。

 そこでわたしは血管を探す間、色々な話をして時間を稼ぐことにしました。偶然ですが、小学生の頃、デンマークのコペンハーゲンにある施設で1か月、世界中の子どもたちと一緒に過ごすCISV(Children’s International Summer Villages)に参加した経験があったので、チボリ庭園や人魚姫の銅像などの話を一方的にマドセンさんに聞いてもらいながら、懸命に血管を見つける毎日を過ごしていました。

ある日、突然のプレゼント

 最初は目をつむって全く無関心だった彼女でしたが、1週間がたち、2週間がたったある日の朝、なかなか上達しないわたしのためにマドセンさんが大きなプレゼントを用意してくれていました。自分の腕と足に採血ができる場所をすぐに見つけられるようにマジックでマークを書いてくれていたのです。腕の内側や膝の裏など、体のあちこちに書かれたマークをうれしそうに指さしながら見せてくれました。

 それまで目も合わせてもらえなかった彼女に、優しいまなざしをかけてもらいながら、その日は1回で採血ができました。次の日も、その次の日も、マドセンさんは新米のわたしのために血管の場所を教えてくれました。そのお陰で、どうやって血管を見つけ、どんな角度で皮膚を引っ張り、どうやって注射針を刺すと痛くないかをマドセンさんからじかに学ぶことができました。

 マドセンさんからは、単に注射針を刺す技術だけではなく、患者さんとの付き合い方の基本までも学ぶことができたと思っています。

 その年の夏、研修中だったわたしはマドセンさんの担当を外れることになりました。その後は忙しいフレッシュマン生活が続き、再びマドセンさんに会うことはなく、お礼を伝えることはできませんでした。

 今のわたしのクリニックにいらっしゃる患者さんの中には、正直なところ、気むずかしい方もおいでです。そんなときは、マドセンさんを思い出し、じっくりと時間をかけて心を開いてもらえるのを待つようにしています。マドセンさんに教えてもらったこと、いまも大切にしています。

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いまづ医師の漢方ブログ_顔120

今津嘉宏(いまづ よしひろ)

芝大門いまづクリニック(東京都港区)院長

藤田保健衛生大学医学部卒業後に慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センター等を経て現職。

日本がん治療認定機構認定医・暫定教育医、日本外科学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医

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3件 のコメント

痛みを感じない針

めざめたじいさん

かかりつけの病院の採血室、朝早くから順番待ちの人の群れ。ちょっと調子が悪いと「採血してきてください」と言われるから。採血する前に、「血管が細いで...

かかりつけの病院の採血室、朝早くから順番待ちの人の群れ。ちょっと調子が悪いと「採血してきてください」と言われるから。

採血する前に、「血管が細いです」との申告で、針を替えてくれます。30G、最も細い針のようです。時間はかかりますが痛くはありません。

新人さんは、互いの腕から採血する練習をしてると聞きました。

30年ほど前と注射や採血方法がすっかり変わりました。当時予防接種は1回に5人分ほどの薬剤を吸い上げ、メモリを見ながら次々刺しました。針の先が摩耗してくると痛いのです。切れ味がなくなるので。

埼玉のシニアさま、貴重なご助言有難うございます。男性だけにある部所の血管は、採血の時変化する可能性があるのでそこからは採血しないでしょう。本来はそれ自身が注射器です。

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はい どうぞ!

埼玉のシニア

元来注射と聞くと心臓がギュッとします。嫌いです。痛いもの。ところが大宮自治医大の採血の方はどなたもうまく採血が苦にならなくなりましたが、どっこい...

元来注射と聞くと心臓がギュッとします。嫌いです。痛いもの。

ところが大宮自治医大の採血の方はどなたもうまく採血が苦にならなくなりましたが、どっこい他に行きましたが痛いし、思わず心の中で、へたくそ、この野郎、おれを殺す気か、などと叫んでしまいました。

どうしても注射の時は横を向きますが、じっと見てる人もあります。横を向き、目をつむり、有ることないこと考えて気を紛らわしますが、困ったことに本当に下手な人もおるのです。

それにしても、注射機会の多いめざめたじいさんの場合は、こうしましょう。先生のブログにある様に、注射はどこでも良いので自分の体のどこに浮き出る血管が有るかを、あらかじめ看護婦さんとみつけて置かれることです。

どうしても腕でなければいけないということはないようですが、全ての血管が埋もれているはずがないので、どこか有るはずです。腕の血管と同じ太さのところですよ。男性自身は除く。

注射の時に、心で歌う歌は 屋根の上のヴァイオリン弾き がいいですよ。
いつもおんぶしてた 可愛い小さな子
昨日までは小さな子が、、、、
はい どうぞ。

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細い血管、採血師泣かせ

めざめたじいさん

心臓疾患、眼疾患、前立腺疾患・・・などを抱え、病院で採血する機会が多い。大腸内視鏡を受けたときのこと、血管が見つからず看護師さん5人がお手上げで...

心臓疾患、眼疾患、前立腺疾患・・・などを抱え、病院で採血する機会が多い。大腸内視鏡を受けたときのこと、血管が見つからず看護師さん5人がお手上げでした。6人目のお医者さんが探り当ててくれました。ためし刺しした腕にあざが幾つも残りました。

それ以来、採血するときは事前に「血管が細いです。私の腕から1回で採血できたら名人です」と言うことにしています。「分かりました、そう言われると心構えが出来ます。針も替えて・・・」と注意深く針を刺してくれます。「入りました」「有難うございました、名人ですね」と礼を言う。

親しいお医者さまに伺うと、血管の細い人は事前に申告した方がいいですよと言います。いつもより細心の注意を払って臨めるからだそうです。
 その上アルコール過敏症ですから、消毒に別のものを使っていただきます。世話の焼ける患者です。

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