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自殺少ない地域 特徴を研究

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弱音吐ける緩やかな交流

岡檀さん

 毎年3万人前後もの人が自ら命を絶つ日本。自殺が少ない地域にはどんな特徴があり、自殺を予防するどんな要素が導き出されるか――を調べた研究がある。先月下旬には一般向けの本も出版された。ポイントをいくつか紹介しよう。(山口博弥)

「悩み相談は恥でない」

 研究を行ったのは、和歌山県立医大保健看護学部講師の岡(まゆみ)さん。全国でもきわめて自殺率が低い徳島県海部(かいふ)町(現・海陽町)で住民たちに聞き取り調査をしたうえで、同町を含む県内の旧9町村の住民3000人以上に質問票を配ってアンケートを行った。

 回答から、海部町の351人と、全国でも自殺率が高い同県A町の305人を比較・分析した結果、自殺を予防する要素として次の五つのキーワードが浮かび上がった。

 〈1〉いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい

 海部町では赤い羽根募金が集まらない。老人クラブの加入率も高くない。「隣の人がやるから」という価値判断では行動しないという。アンケートでは「相手が見知らぬ人でも、ほとんどの人は信用できる」と考える人が、A町の13%に比べて海部町は28%と高かった。「均質化を嫌い、個を尊重し、身内意識が薄い」のが特徴だ。

 〈2〉人物本位主義をつらぬく

 リーダー選出の条件として、「問題解決能力を重視する」のは海部町が高く、「学歴が高い方がよい」はA町が高かった。

 〈3〉どうせ自分なんて、と考えない

 「自分のような者に政府を動かす力はない」と考える人が、A町では51%だったのに対し、海部町は26%と半分ほどだった。

 〈4〉「病」は市に出せ

 海部町に古くから伝わる言葉。「病」は病気だけでなく、家庭や仕事などにおける人生のあらゆる問題を指す。「市」は市場、公開の場のこと。病気や悩みなどは早めに大っぴらにすれば、だれかが助けてくれる――という意味だ。

 「悩みを抱えた時に、だれかに相談したり助けを求めたりすることを恥ずかしいと思うか」という質問に、「思わない」と回答したのは、海部町が63%、A町は47%だった。

 〈5〉ゆるやかにつながる

 近所づきあいについて、「日常的に生活面で協力しあっている」のは、A町の44%に対し、海部町は17%と大きく下回った。多いのは「立ち話程度」と「あいさつ程度」の付き合いに集中している。

 あまりに濃密な人間関係が固定すると、弱音を吐きづらくなる。「監視社会」「ムラ社会」の生きづらさだ。海部町のある住民は「よそから来た人に関心は持つ。でも、関心と監視とは違う」と話したという。〈1〉と〈4〉にも通じるが、ゆるやかな結びつきが「生き心地の良さ」を生む。

 これら五つの要素は、海部町で長い年月をかけて培われた特徴。他の地域で一朝一夕に取り入れるのは難しいかもしれない。でも、岡さんはこう助言する。

 「海部町のまねを全部する必要はなく、『いいとこ取り』をすればいい。個人でも地域でも、こっちの方向がいいな、と思ったら、そちらへ進めばいいのではないでしょうか」

「生き心地の良い町~この自殺率の低さには理由(わけ)がある~」
 岡さんの研究成果を、住民200人以上のインタビューやエピソードを交えて紹介。合併前の全国3318市区町村の気候・地形と自殺率との関係も分析した。(講談社、1400円=税別)
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