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治らない腰痛…神経締め付けの可能性

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 腰痛に苦しむ人は多い。病院で検査を受けて脊椎の異常が見つかった場合、手術を受けて治ればいいが、手術は成功したのに痛みが消えない人は少なくない。横浜市の市立脳血管医療センターでは、脊椎ではなく、腰の表面を通る神経が痛みを引き起こしている場合があるとして、麻酔薬の注射や簡単な手術で効果を上げている。

麻酔注射や筋膜を切開

 静岡市の看護師、戸塚美樹子さん(48)は、10年ほど前から腰痛になり、3年前に悪化、脚のしびれやふくらはぎの痛みも表れた。整形外科で検査を受けると、背骨の椎骨が神経を圧迫していると診断され、手術を受けた。

 しかし、手術後も痛みは消えない。複数の病院を受診しても治らず、鎮痛薬の量は増えるばかり。そこで今年4月、主治医の紹介で横浜市立脳血管医療センターの脊椎脊髄疾患センター長、青田洋一さん(整形外科医)の診察を受けた。

 青田さんは、戸塚さんの腰の、あるポイントを指で押すと、最も強い痛みが走り、いつも感じている痛みやしびれも表れることを確認した。さらに、上体を前や後ろに倒すと痛みが生じることなどから、「上殿皮(じょうでんひ)神経」の締め付けによる神経障害と診断した。

 上殿皮神経は、背骨とお尻の上部の表面を結ぶ神経で、左右に5、6本ずつある。

 青田さんによると、この神経が骨盤の「腸骨」を乗り越える際、腸骨とその表面に付着する筋肉を包む「筋膜」との間に挟まれ、神経が締め付けられる場合があり、腰痛や脚の痛み、しびれの原因になるという。

 戸塚さんの場合、押すと痛む点(圧痛点)が左右両側にあり、そこに麻酔薬を入れる「神経ブロック注射」を受けた。しかし、重症のため数時間で効果が切れ、5月に手術を受けた。

 手術は、上殿皮神経を圧迫している筋膜を切開するだけ。筋肉そのものは切らないため、患者の身体的なダメージは少ない。戸塚さんは痛みが軽くなり、「とても楽になって、歩きやすくなった」と喜ぶ。

 青田さんがこの神経の研究を始めたのは、横浜市大病院に勤務していた2005年。フランスの整形外科医の報告を知り、08年から11年に腰や脚の痛み・しびれのために受診した患者775人を調べたところ、約12%に当たる96人が上殿皮神経の障害とみられた。

 患者62人に、この神経へのブロック注射を行ったところ、53%は1回の注射で効果があり、複数回の注射を含めると81%に効果があった。青田さんは、注射を複数回行っても効果が持続しない場合に限り、手術を行うことにしている。

 手術自体は、「末梢(まっしょう)神経剥離手術」として保険がきく。この手術は、釧路労災病院(北海道釧路市)、日本医大千葉北総病院(千葉県印西市)の各脳神経外科と、横浜新緑総合病院(横浜市)の脳神経センターでも行われている。

 青田さんは現在も上殿皮神経障害の研究を続けており、「腰の動きに制限が出たり、脚のしびれが表れたりすることもあり、腰椎の神経障害と紛らわしい。腰椎の手術を受けても痛みが消えず、何年も苦しんでいる腰痛患者には、特にこの病気は多い」と話している。(山口博弥)


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