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がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~・コラム
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医療現場で直面する疑問

 予防、診断、治療など、医療のさまざまな場面において、患者さんや、医療従事者、ときには全国民が、多くの疑問点に直面しますが、そういう、「医療現場で直面する疑問」のことを、「クリニカルクエスチョン(CQ)」と呼びます。

 前回まで、数回にわたって考えてきた「がん検診は受けた方がよいのか?」という問いかけも、重要なCQです。

 CQに直面したとき、それに答えを出し、方針を決める必要があるわけですが、どのようにして答えを出すのかを、がん検診を例にとって、実践してみたわけです。



CQ=クリニカルクエスチョンの答え

 CQは疑問文で表現されますが、患者さんや国民にとっては「自分は、その医療行為(検査や治療など)を受けた方がよいか?」、医療従事者にとっては「目の前の患者さんに、その医療行為を行った方がよいか?」という形の疑問文になります。

 医療現場は、CQだらけです。外来の診察室では、限られた診察時間の中で、的確に、患者さんの抱えるCQに対する答えを出して、方針を立て、検査を行い、治療を行い、薬を処方して、次の外来を予約しなければなりません。われわれ医者が勝手に判断すればいいというものでもなく、患者さんとよく話し合って、納得できる答えを出すことが重要です。

 すべてのCQについて、できるだけレベルの高いエビデンス(根拠)に基づいて答えを出しましょう、というのが「エビデンスに基づく医療(EBM)」の考え方です。患者さんも、この考え方を理解し、エビデンスのレベルを「格付け」することができれば、エビデンスを共通言語に、医者と効率よく語り合うことができるはずです。

 でも、現実は、なかなかそのようにはなっていません。



生かされないエビデンス

 患者さんも、医者も、エビデンスに基づいて考えようとはせず、「なんとなく」「今までこうやってきたから」「あの人も受けているから」「テレビでこれがいいと言ってたから」なんていう理由で、答えを出している場合はよくあります。

 エビデンスに反する医療行為でも、それを患者さんが希望していれば、「エビデンスを説明して理解してもらうのは面倒だし、患者さんが希望しているのだから、その通りやってしまえばいい」と、患者さんの希望通りに行われることがよくあります。その方が、医者も説明は楽に済みますし、表向きは患者さんも満足しますし、検査や治療を行うことで病院側も儲(もう)かりますので、みんな幸せかもしれませんが、エビデンスに反しているということは、結果として、患者さんには不利益が及んでいる可能性が高いということになります。

 また、医者がエビデンスに基づいて判断しているとしても、そのことが、患者さんには伝わらず、「なんでこの検査や治療が行われているのかわからないけど、医者も忙しそうだし、任せるしかない」というように、十分に納得しないまま、医療行為が行われている場面も多いようです。



診察室の外にもあるCQ

 診察室の外では、状況はさらに厳しくなります。医療従事者の間で常識となっているEBMというルールは、診察室の外ではほとんど力を持っていません。診察室の外で、人々が最も頼りにしている情報源は、マスメディアですが、以前、「マスメディアの情報」(5月22日付)にも書いたように、マスメディアが情報を流す際には、「EBM」よりも、「善悪二元論」と、「センセーショナリズム」が重視されているようです。

 このような状況では、自分で情報を見極める(エビデンスの格付けをできる)目を持っていない限り、エビデンスに基づいて適切に判断するというのは、難しいでしょう。

 診察室の外にいても、多くの人が、多くのCQに直面しています。最近の話題で言えば、


  • (副作用が問題となっている)子宮頸(けい)がんワクチンは打った方がよいか?

  • (今年流行している)風疹のワクチンは打ったほうがよいか?

  • (アンジェリーナ・ジョリーのように)遺伝子検査を受けて、乳がん・卵巣がんになりやすい遺伝子が見つかったら、乳房を予防的に切除した方がよいか?


 などのCQがあります。また、医療ではありませんが、


  • (かつて、BSE問題で輸入禁止になっていた)米国産牛肉は食べても大丈夫か?

  • (いくつかの事故があった)ボーイング787型機に乗っても大丈夫か?


 なんていうのも、広い意味でのCQと言えるかもしれません。



エビデンスから考えよう

 これらのCQについて、エビデンスに基づいて考えましょう、というのが、私からの一番のメッセージです。

 がん検診については、前回、エビデンスに基づいて考える際の4つのポイントを示しましたが、このポイントは、すべてのCQについて当てはまります。

(1)その医療行為の目的は何か?

(2)利益はどれくらいか?

(3)不利益はどれくらいか?

(4)利益と不利益のバランスはどうか?


 次回以降、多くの人が直面しているCQをいくつか取り上げ、上記の4つのポイントに沿って考えていく予定です。

 まずは、子宮頸がんワクチンについて取り上げるつもりですが、皆さんも、「子宮頸がんワクチンは打ったほうがよいか?」というCQについて、この4つのポイントに沿って、検討してみてください。

 皆さんが、目にしたり、耳にしたりしている情報の、「エビデンスレベル」(格付けの星の数)がどの程度か、というのを意識してみると、情報の見え方が違ってくるかもしれません。「善悪二元論」や「センセーショナリズム」に惑わされないように気をつけて、情報そのものを見極めるようにしてみてください。

 私自身も、娘を持つ父親ですので、自分の問題として、このCQに対する答えを考えてみようと思っています。

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