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山口デスクの「ヨミドク映画館」

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きてれつな武器と血しぶきに酔いしれる~アイアン・フィスト

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 もう過ぎてしまいましたが、今年7月20日はブルース・リーが亡くなって40年。様々な新聞や週刊誌で特集が組まれ、20日には夜7時のNHKニュースでも取り上げられていました。

 彼の登場を機にカンフー映画は全世界でブレークし、その後、ジャッキー・チェン、ジェット・リーなど、スタイルは違うけどすばらしいカンフースターが現れました。

 実は、彼らのように卓越したカンフーの技を披露して観客を魅了する映画がある一方で、カンフー映画には別のジャンルが存在します。それは、主人公はカンフーがへたくそだけど(笑)、「アイデアで勝負!」な映画です。

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片腕カンフー対空とぶギロチン

 代表的なのは、主人公が片腕を切り落とされ、残る片腕を鋼鉄のように強化して戦う「片腕ドラゴン」(1972年/香港)や、その主人公が、空飛ぶギロチンを操る盲目の老人と戦う続編「片腕カンフー対空とぶギロチン」(1975年/台湾・香港)でしょう。

 主人公を演じるジミー・ウォングは、はっきり言ってカンフーがへたくそです。いや、できないと言っていい。ストーリーもいい加減です。にもかかわらず、発想の豊かさ、企画のユニークさが、それらをカバーして余りある。空飛ぶギロチンなんて、長いロープが付いた帽子のような布の中に数枚の刃が仕掛けてあって、それをびゅーんと飛ばして相手の頭にかぶせ、ロープを引っ張ると首がスパーッと切れちゃうんですよ。

 登場する敵たちも変です。柔道やムエタイ(タイ式キックボクシング)、テコンドーの達人はまだいい。でも、気功の力を使い、漫画「北斗の拳」のハート様のように体がパンパンに膨らんで敵の攻撃が効かなくなるラマ僧や、両腕が「ワンピース」のルフィのようにビヨ~ンと長く伸びるインドのヨガ行者などが登場すると、もはやビックリ人間大集合。主役は主役で、「ええ? こんなえげつないことをやっていいの?」と引いちゃうほど、ジミーさんは卑劣な戦いぶりを見せます。

 これらは、作品のレベルとしてはかなり低いけれど、カルト映画として一部で絶大な人気を博しました。クエンティン・タランティーノ監督もこれらの映画が大好きで、彼の映画にはその影響が見られる作品も少なくありません。「キル・ビル」もそうですね。

 

 さて、前置きが異常に長くなってしまいましたが、今回紹介するのは、タランティーノ監督がバックアップした「アイアン・フィスト」(2012年/アメリカ、8月3日公開)。カンフー映画が大好きなヒップホップ・アーティスト、RZA(レザ)が、監督、脚本、主演、音楽の1人4役で作った映画です。

 以下、ネタバレもありますが、おもしろさが減ることはありませんのでよろしく。

© 2012 Universal Pictures 配給:シンカ

 舞台は19世紀の中国。鍛冶屋のブラック・スミス(RZA)は、武装集団に武器を作って細々と生活しています。そんな中、政府の金塊をめぐり、最大の武装集団「猛獅会(ライオン会)」で内部紛争が起こります。殺害された首領「金獅子」の後継者争いに巻き込まれた鍛冶屋は、両腕(前腕部)を切り落とされてしまう。しかしそこは鉄製品を作るプロ。謎の白人ジャック・ナイフ(ラッセル・クロウ)の協力も得て、鉄の拳、アイアン・フィストを製作、両腕に付けて猛獅会との戦いに挑む――。

 名優ラッセル・クロウは、法の番人で美声を披露した「レ・ミゼラブル」とはうって変わって、女好き・酒好きの粗野な男の役。キリキリ回転するハサミのようなナイフを操り、相手を切り刻みます。娼館(しょうかん)の女主人、マダム・ブロッサムには、「チャーリーズ・エンジェル」「キル・ビル」のルーシー・リュー。終盤、ナイフが付いた鉄扇を武器に暴れ回ります。金獅子の息子、ゼン・イー(リック・ユーン)は、全身に武器を仕込んだよろいを着て戦います。

 ストーリーなんて二の次。様々な国籍の男たち女たちが、工夫を凝らした珍しい武器の数々を駆使し、血しぶきが上がる場面の数々に、1970年代のカンフー映画を見てきたオジサンたちなら拍手喝采すること請け合いです。

 そして主役のRZA。カンフーはできないし、すごい動きを見せることもない。でも、いいんです。ごつごつしたアイアン・フィストでひたすら敵を殴る。この映画の場合、それだけで十分。

 欲を言えば、もう少し目力(めぢから)が欲しい! 最初から最後まで、死んだ魚のような目をしています。クライマックスの戦いでもそう。ぜひ、「あまちゃん」のユイちゃんを演じている橋本愛の目力を見習ってほしい

 さて、アイアン・フィストには指が付いていて、動きます。物がつかめるのです。モーターも配線も何もない、ただの鉄の塊なのに、なぜ動くのでしょうか。

 アイアン・フィストを製作している場面では、RZAが修行時代の先輩僧侶(?)の声が流れる。ここに答えがあります。


 「必要なのは呼吸と気の制御法を学ぶこと。人は驚くべき力を秘めている。己の活力の源を探し当てれば、その力を転じて、動かぬ物体も動かせる。人と物体はひとつになるのだ。物体はその人の意思のままに動く。心のまま、気の流れのままに…」


 そうです。アイアン・フィストの指は、「気」で動いていたのでした。

 「そんなバカなことがあるかい!」と思いますよね。

 でも、私はそれほどおかしいとは思いませんでした。


 ここからは映画ではなく現実の話ですが、「筋電義手」という義手があります。

 腕を失っても、腕を動かすよう脳が指令を出すと、腕の筋肉に電気信号が伝わります。貼り付けたセンサーがその電気を感知し、モーターに伝えて義手の指を動かします。

 すでに実用化されていて、読売新聞朝刊の「医療ルネサンス」では、2010年1月の連載「最新機器で回復」の1回目で紹介しました。こうした機器の開発により、すでに現代では人と物体はひとつになり、ある程度まで物体はその人の意思のままに動かせるようになっているのです。

 近年では、まったく体を動かせなくなったALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者のために、脳血流や脳波を測定して意思伝達ができる装置も開発されているようです。ただの鉄の塊を動かすのはさすがに今でも難しいけれど、現代の科学技術は、昔なら考えられなかったことを可能にしている。すばらしいことだと思いませんか?

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山口博弥(やまぐち ひろや)

読売新聞医療部デスク

1987年 早稲田大学法学部卒、読売新聞入社

地方部、社会部などを経て1997年から医療情報室(現・医療部)。

趣味は武道。好きな映画は泣けるヒューマンドラマとアクションもの。

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