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がんのウイルス療法…がん細胞だけで増殖、破壊

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 がん細胞に特殊なウイルスを感染させて破壊する「がんのウイルス療法」。東京大と同大医科学研究所病院で、前立腺がんや脳腫瘍に対する臨床研究が始まっている。従来にないがん治療として注目されそうだ。

 がん細胞は、盛んに細胞分裂を繰り返す。これにウイルスが感染すると、ウイルスもどんどん増えることが知られている。がん患者が感染症にかかり、がんが治った例も報告されている。

 そこで、ウイルスの遺伝子を組み換えて、がん治療用のウイルスを作る研究が1990年代に始まり、欧米ではさまざまなウイルスの開発が進んでいる。

 東京大で使われるのは、同大医科学研究所脳腫瘍外科教授の藤堂具紀(ともき)さんが開発した「G47(デルタ)」というウイルス。日本人にはごくありふれたヘルペスウイルスの一種に、三つの遺伝子変異を人工的に加えたものだ。

 ウイルスのDNA合成に必要な酵素の遺伝子を変異させるなどして、正常な細胞ではウイルスは増えないが、がん細胞に限ってよく増えるようにした。ウイルスは、増える過程でがん細胞を破壊し、死滅させる。

 しかもウイルスが増えると、体の免疫細胞ががん細胞を認識し、攻撃する仕組みにもなっている。

 米国では、ヘルペスウイルスに二つの遺伝子変異を加えたがん治療用ウイルスが開発され、臨床研究が進んでいるものもある。藤堂さんが開発したウイルスは、動物実験ではがん細胞を殺す効果も安全性もさらに高く、世界初の第3世代のがん治療用ウイルスとして注目を集めている。

 東京大では2009年から、脳腫瘍の中でも最も悪性度の高い「膠芽腫(こうがしゅ)」が再発した患者を対象に、安全性を調べる臨床研究を行っている。

 これとは別に、同大泌尿器科では5月から、前立腺がん患者に対する臨床研究も開始した。

 対象は、ホルモン剤による治療を受けている間にがんが再び活発化(再燃)した患者で、前立腺の摘出手術を受けていない人。局所麻酔をかけ、ウイルスの入った液体を前立腺に針を刺して直接注入する。

 1回の処置にかかる時間は30分程度。2~4回、投与を繰り返す。安全性を確認する臨床研究で、9人の患者を予定している。

 臨床研究を実施する同大泌尿器科講師の福原浩さんは「再燃した前立腺がんにはこれまで完治させる治療法がなく、将来的に有効な治療になれば」と話す。

 ウイルスを開発した藤堂さんは「従来のがん治療に比べ、ウイルス療法は理論的に正常組織へのダメージが少なく、同時にがん細胞への免疫反応を強く引き起こす。治験を進め、一日でも早く治療の選択肢としたい」と話す。(館林牧子)


ヘルペスウイルス
 単純ヘルペスウイルス1型、2型の他、水ぼうそうのウイルスなどがある。今回使われたのは単純ヘルペスウイルス1型で、成人の約8割が感染しており、唇や口の周りに水ぶくれなどを起こすことがある。

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