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食品安全委員会の10年(上)リスク評価の人材不足

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 食品の安全性を科学的に評価する機関として、食品安全委員会が発足して10年。BSE(牛海綿状脳症)や原発事故の放射性物質など、食の安全に関わる問題が続いた中、国民の健康を守る役目を果たせたのか。評価の仕方や情報発信力などを検証する。

結論の遅さ指摘も

 今月、国内での牛のBSE検査の基準が緩和された。政府は検査の対象となる牛を「30か月齢超」から「48か月齢超」に引き上げた。これに合わせ、75自治体が独自に続けてきた全頭検査をやめ、一斉に国の基準に合わせている。

 緩和の根拠としたのが食品安全委員会の答申だ。月齢を変えても「人への健康影響は無視できる」とした。国際獣疫事務局(OIE)が5月に日本をBSEリスクが「無視できる国」と認定したこともあり、全頭検査をやめる動きが広がった。

 食の安全・安心財団理事長の唐木英明さんは「全頭検査すれば安全と誤解されてきたが、病原体のプリオンが蓄積されないと検査では見つからない。特に若齢牛を検査する科学的な意味はなかった」と、同委員会の評価に沿った検査態勢になったことを歓迎する。

 同委員会は、微生物、公衆衛生、毒性学などの有識者7人が委員を務める。分野ごとに専門調査会があり、非常勤の研究者約200人が所属。国内外で発表された論文を検証するなどして結論を出す。

 同委員会ができて何が変わったのか。同委員会「プリオン専門調査会」座長を2010年3月まで務めた千葉科学大副学長の吉川泰弘さんは「食の安全に関わる議論を消費者の目に見える形で公開し続ける点が従来とは違う」と強調する。行政機関の要請に加え、消費者から公募したテーマなどを委員会独自で調べる「自ら評価」の仕組みもあり「消費者に近いところで評価する枠組みができた」。

 一方で、「本当に議論し尽くしたのか疑問に思う点もある」と吉川さん。指摘するのは、昨年10月に出したBSE答申の、プリオンが蓄積しやすいSRM(特定危険部位)の扱いだ。すべての牛で除去していたのを、「30か月齢超」と緩和。「リスクの差はあったとしても非常に小さい」とした。アメリカ、カナダ、フランス、オランダから輸入する牛のSRMも同様に30か月齢超で線引きする。

 しかし、欧州連合(EU)では現在、SRMの頭部は「12か月齢超」で除去している。「国によって事情は違うのに、30か月という横並びの評価で良かったのか」

 実はリスク評価のできる専門家が日本には少ない。日本学術会議は11年9月に、食の安全分野における専門家が少なく、人材養成を急ぐよう提言している。「大学教育も不十分。最新の国際動向に目を向けるべきだ」と指摘している。

 関西学院大名誉教授の山崎洋さんは「海外の評価機関は、独自に研究室を持つところも多く、企業や研究機関と連携して人材をそろえている」と話す。同委員会は、専従スタッフの数も少なく、「なかなかリスク評価の結論を出せない場合がある。時代遅れの態勢に見える」と山崎さん。

 同委員会委員長の熊谷進さんは「予算も常勤スタッフも増やしていく必要がある」と話す。

 食品安全委員会 BSEをきっかけに「食品安全基本法」に基づき、2003年7月に発足。中立的な立場で、食品や添加物、農薬などが人の健康に与える影響を科学的に検証(リスク評価)する。「こんにゃく入りゼリーを含む窒息事故の多い食品」「生食用牛肉における腸管出血性大腸菌」「放射性物質」など約1400件の「食品健康影響評価」を行っている=表=。

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