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最新医療~夕刊からだ面より

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iPS細胞使い 難病治療研究…病気再現 新薬開発促す

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 あらゆる組織の細胞に変化できるiPS細胞(人工多能性幹細胞)を使って、難病の治療薬を開発する研究が全国で進んでいる。iPS細胞から作った筋肉や神経の細胞を使って病気の状態を再現し、薬の候補物質を探し出す試みだ。患者が少ない病気の治療にもつながると期待されている。


 iPS細胞の医療応用では、けがや病気で失った体の機能をよみがえらせる再生医療のほか、新たな医薬品を開発する創薬の分野での実用化が有望視される。

 慶応大教授の福田恵一さんらは、不整脈で突然死につながる遺伝性の心臓病「QT延長症候群」の患者の細胞から、iPS細胞を作製した。これを心臓の筋肉の細胞に変化させて電気信号の特性を調べると、健康な人よりも収縮時間が長い、同症候群特有の病態が表れた。

 患者の体内から発症部位の細胞を採るのは難しいが、iPS細胞を使えば神経などの細胞を作って病気の発症や進行を実験室で再現できる。病気を引き起こす遺伝子が働き発症するとみられている。

 QT延長症候群には13種類の原因遺伝子が知られており、福田さんはこのうち4種類について、異常を持つ心筋細胞をそれぞれ作った。この4種類で同症候群の患者の大半を網羅できるという。福田さんは「この細胞に治療薬の候補物質を投与すれば、効果や副作用を調べられ、製薬企業が薬の開発に使える」と説く。

 脳の神経細胞が死滅する認知症「アルツハイマー病」の予防薬を作る研究もある。京都大iPS細胞研究所准教授の井上治久さんらは、患者からiPS細胞を作って神経細胞に変化させた。この神経細胞を使い、青魚に含まれる不飽和脂肪酸の一種が発症を抑える可能性があることを突き止めた。

 4人の患者由来の神経細胞を調べると、2人の細胞で有害な刺激を与えるたんぱく質がたまり、不飽和脂肪酸の投与で刺激が減った。また、有害な刺激を与えるたんぱく質が多い1人の神経細胞を、栄養が不足した状態で半月ほど置くと3割が死滅したが、あらかじめ不飽和脂肪酸を投与しておくと死滅が1割にとどまった。

 井上さんは「将来は、発症前の若い人のiPS細胞から神経細胞を作り、有害なたんぱく質の量などで発症リスクを調べられるようになる」と、検診や予防へのiPS細胞の活用を見据える。

 文部科学省と厚生労働省は昨年度、患者数が少ない難病の薬を研究する事業を始めた。京大や大阪大など5研究室を拠点に指定し、50の厚労省研究班と連携する。筋力が徐々に衰える「遠位型ミオパチー」や、ホルモンの分泌異常が起きる「間脳下垂体機能障害」などが研究対象だ。

 同研究所副所長の戸口田(とぐちだ)淳也さんは、筋肉や(けん)が骨に変わってしまう「進行性骨化性線維異形成症」を研究する。患者の協力を得てiPS細胞を作り、骨の細胞に変化させ、症状の一部を再現した。製薬企業とともに、骨への変化を抑える薬の開発に乗り出した。

 患者の少ない難病は研究が難しく、原因究明や薬の開発が停滞してきただけに、戸口田さんは「発症の原因を調べて治療への道につなげたい」と話している。(米山粛彦)


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