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[亀渕友香さん]幸せと元気の「料理」

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「おいしい料理や、食卓のだんらんは、人の心を開いてくれる。みんなでワイワイと食べる時間を大切にしたいですね」(東京都内で)=本間光太郎撮影

 「ぜひ一緒に食べていってくださいね」。記者に向かってそう言うと、キッチンに立って料理の下ごしらえを始めた。ナスやズッキーニなど夏野菜を、トントントンとリズムよく切っていく。「今日は和食とイタリア料理の融合といったところかしら。旬の素材をシンプルにね」

 友人や、主宰するコーラスグループ「The Voices of Japan(VOJA)」のメンバーを自宅に招き、料理をふるまうのが最近の楽しみだ。実は数年前まで、ほとんど料理はしていなかった。

 日本を代表するゴスペル歌手。パワフルでリズミカルな歌声には老若男女のファンがいて、「ビッグママ」の愛称を持つ。中学時代に聞いた、アメリカのゴスペル歌手の歌声に魅了され音楽の道へ。渡米経験も生かし、黒人音楽を中心に歌い続けてきた。近年はソロ活動にも力を入れ、万葉集の歌に曲をつけて現代風ラブソングにして歌うなど、新たな挑戦も続けている。

 料理を作る頻度が増えたのは6年ほど前、体調を崩したのがきっかけ。コンサート後に倒れ、病院に担ぎ込まれた。糖尿病になっていたことがわかった。

 長年外食中心の生活で、好きなように食べていた。コンサート終了後の深夜に肉料理を食べにでかけたことも。「こんな体形でも病気ひとつないのよ」と冗談めかして言っていた。

 体が弱ると声も出にくくなった。ようやく食生活を見直し、自炊中心に切り替えた。野菜を中心にバランス良く、調味料は少々値が張っても質の良いものを選ぶ。味付けもシンプルに。料理に「はまった」結果、体調は徐々によくなり声も戻った。

 せっかくなら一人よりも大勢で食べたい。VOJAのメンバーは若者も多く、彼らの健康も気になる。ならば食事会を開こう。大皿料理を何皿も作り、ワイワイとつつき合って食べる。「みんな驚くほどよく食べるの」。5~6人用のテーブルを10人以上で囲むことも珍しくない。

 食事をしながら話すと、普段は気づかない仲間の表情が見えてくる。将来の目標、家族や恋人の話、生活の悩み――。互いが素直に向き合う時間だ。

 料理と歌は似ている。食材が人間一人一人が持つ「声」ならば、料理は様々な声が混じり合って生まれるコーラスのようなもの。祈りや感謝を込めた歌が心に響くように、招く人のことを思って作る料理は心身に優しく染み渡る。「私は歌で人の心を開いてきたけれど、料理でもそれができる。新たな力、生きがいを得た気がします」。食卓に笑顔があふれれば、自分も仲間も元気になる。この元気を歌のパワーに変えて、ステージから多くの人に届けていきたい。

 タラのムニエルに蒸した夏野菜が添えられ、運ばれてきた。オリーブ油とバルサミコ酢、しょうゆを合わせたドレッシングがかかっている。「さあ食べましょ。これからも、こうやってみんなで食べる時間をたくさん作りたいの」。「ビッグママ」の料理には、幸せと元気が詰まっている。(上原三和)

 かめぶち・ゆか ゴスペル歌手。1944年札幌市生まれ。68年、リズムアンドブルース(R&B)のグループ「リッキー&960ポンド」のボーカリストとしてデビュー。「亀渕友香&VOJA」は今年、結成20周年を迎えた。今月6日には東京都江東区の「ティアラこうとう」で記念コンサートを開く。

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