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オトコのコト 医師・小堀善友ブログ

妊娠・育児・性の悩み

小学生男児の腹痛 陰のうが原因の場合も

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 今回は、救急外来で直面したある男の子のケースを紹介しましょう。とある日の早朝、小学校5年生の男の子が、母親に付き添われ、救急外来を受診しました。腹痛を訴え嘔吐(おうと)したということです。小児科医が対応し、「特に問題はない」と一度は帰宅しましたが、痛みは続き苦しそうです。昼頃に、母親が救急車を要請、再度受診しました。

 さていったいなにが起こったのでしょうか?詳しくみていきましょう。

一度目の受診

 救急外来で、小児科の当直医が診察を行いました。明け方に嘔吐した事、便通に異常がない事を母親が告げました。腹部の触診では、特に下腹部に痛みがあるようであるけれども、腹膜刺激症状(押すと痛くなったり、腹部がカチカチになるような腹膜炎の症状)もなく、超音波検査と血液検査では異常がなかったため、胃腸炎と診断されました。

帰宅後の様子

 問題ないと言われたのは良いが、痛みは消えません。食事もとれず、水分もろくに取れない。家に帰ってきても痛みは増すばかりで、満足に問いかけにも答えられないほどでした。

二度目の受診

 救急車にて再受診。救急部のスタッフが診察。腹部の所見は同様であったが、パンツをおろすと右の陰のうがやや赤く腫れているのに気がつきました。そこを触ると激痛があります。

 さて、ここで、皆さんもおわかりでしょうか? 「おなかが痛い」との訴えでしたが、実は、原因は陰のうにあったのですね。では「陰のうが痛い」となったとき、何が疑われるのでしょうか? 私たち泌尿器科医が疑うのは、次の2つです。


(1)


精巣上体炎 尿路を逆行して、精巣上体(副睾丸)に炎症を起こしてしまった状態。性病でもなる場合がある。

(2)

精巣捻転 精巣を栄養する精索という血管がねじれてしまった状態。新生児期〜思春期にかけての発生がほとんど。


 この男の子の場合は、超音波検査や、年齢から、精巣捻転と診断されました。精巣捻転の治療で知っておきたいのは、ゴールデンタイム(治療できる時間)です。一般的に、発生より6時間以内が望ましいとされています。それ以上時間が経過すると、血管がねじれてしまったために血液が精巣に届かなくなり、精巣が壊死してしまうのです。

陰のうを手で回転

 治療はまず、陰のうを手で回転させます。

 この男の子は、くるくると180度回転させるも、痛みは改善せず、緊急手術となりました。陰のうを切開すると、精巣が内側へ360度回転してしまっていることがわかりました。もとにもどすと、精巣の血流が良くなったためか、精巣の色が良くなってきました。

 ということで、無事にこの男の子は手術後に全快し、退院する事ができました。

お母さんたちにお願い

 思春期前後の男性には精巣捻転が起こる場合があります。腹痛や嘔吐など消化器症状があるために胃腸の病気と間違えがちで、注意が必要であると改めて感じました。また、若い男の子は自分の陰のうが痛くても恥ずかしくてはっきり言えない場合もあります。

 お母さんたちにお願いします。「おなかが痛い」と子どもが訴えたら、陰のうの様子もしっかりみてあげてほしいと思います。

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小堀善友 (こぼり よしとも)

泌尿器科医 埼玉県生まれ

2001年金沢大学医学部卒、09年より獨協医科大学越谷病院泌尿器科勤務。14年9月から米国イリノイ大学シカゴ校に招請研究員として留学。専門分野は男性不妊症、勃起・射精障害、性感染症。詳しくはこちら
主な著書は『泌尿器科医が教えるオトコの「性」活習慣病』(中公新書ラクレ)。詳細はこちら

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2件 のコメント

炎症や痛みの波及

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

若年者の精巣や高齢者のそけいヘルニア(脱腸)は「いわゆるお腹」の範囲の外に病変があるため、見逃しがちですよね。研修医時代に外科の先生が繰り返しお...

若年者の精巣や高齢者のそけいヘルニア(脱腸)は「いわゆるお腹」の範囲の外に病変があるため、見逃しがちですよね。
研修医時代に外科の先生が繰り返しおっしゃられていたのを憶えています。
確かにいつもパンツを下すのは、やる方もされる方も気持ちのいいものではないですが、臨床経過と病名の整合性によってはたとえ結果として所見がなかったとしてもやらないといけないとは思います。

こういった「遠隔地」での炎症や病気の影響で、少し離れたところが痛むことはよくあります。
極端なものであれば、サイトカイン・ストームや敗血症など、全身状態が悪くなることもあります。
(おそらく、そこまで程度のひどくない似たような病態もあるんじゃないかと思います。)

その辺は本当にさじ加減の問題で難しいです。

僕はチキンなので、迷った場合は必ず患者さんに「再診をためらわない」ように注意して帰します。
当たり前ですが、理由もはっきりせず、程度や頻度が増してきた場合は要注意です。

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医者の力には脱帽です。

元脳梗塞

医師が迅速に的確な判断ができるのも臨床例を数多く経験している賜物?でしょうか。

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