文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~・コラム

yomiDr.記事アーカイブ

スローガンより役に立つこと

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 前回に引き続き、今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会プレナリーセッションで発表された、「3つ星エビデンス」を紹介します。

 インドで15万人の女性を対象に行われた、子宮頸がん検診についての、ランダム化比較試験です。

 

子宮頸がん検診の「3つ星エビデンス」

 インド国内の20地区が選定され、くじ引きのような方法で(ランダムに)、「検診を行う10地区(検診グループ)」と「検診を行わない10地区(非検診グループ)」に分けられました。検診グループの約7万5000人の女性には、2年に1回の子宮頸がん検診が行われ、非検診グループの約7万6000人の女性との比較で、子宮頸がんの発症率や死亡率が調べられました。

 この検診で用いられた検査法は、日本など先進国で普及しているような、子宮頸部細胞診検査ではなく、子宮頸部に「酢」を塗りつけたあとで光を当てて観察するだけの簡単なものでした。がんや、がんになる前の病変は、酢に反応して、色が白く変化するので、この検査で、早期がんが容易に発見できるそうです。

 10年以上にわたって追跡した結果、子宮頸がんの発症率は2つのグループで同程度でしたが、検診グループでは早期で見つかる人の数が多く、非検診グループでは、より進行した状態で見つかる人の数が多くなっていました。検診によって、「早期発見」ができていたということです。

 子宮頸がんで亡くなった人の数は、検診グループで67人、非検診グループで98人でした。検診を行い、「早期発見」することで、子宮頸がんで亡くなる人の数を31%減らせたことになります。

 この発表をした医師は、子宮頸がん検診が普及していない国に、この検診法を普及させれば、世界中で毎年7万2000人の命を救うことができると述べました。

 

検診で死亡率が下がる

 さて、この3つ星エビデンスを、どのように解釈すればよいでしょうか。

 子宮頸部細胞診を用いた子宮頸がん検診によって、子宮頸がんによる死亡率が下がるというのは、ほぼ確実なことと考えられています。これは、子宮頸がん検診が普及している国々で、子宮頸がんによる死亡率が大幅に減っている、という事実から推測されているものです。子宮頸がん検診について、大規模なランダム化比較試験の結果が示されたのは、今回が初めてで、子宮頸がん検診による早期発見と早期治療が有効であるということが、より明確に示されたと言えます。

 今回のエビデンスは、子宮頸がんの発症率が高いにもかかわらず、もともと、検診が普及していない発展途上国での話で、検査の方法も違っていますので、そのまま日本人に当てはめるのは、適切ではないかもしれません。

 でも、日本の子宮頸がん検診の受診率は約20%で、先進国の中では最も低く(米国は約80%)、発展途上国なみのレベルにありますので、今回のエビデンスもふまえて、きちんと議論していく必要があるのではないかと思います。

 

エビデンスで示す検診の意義

 日本では、「早期発見・早期治療」というスローガンがひたすら連呼され、がん検診を推奨するキャンペーンがあちこちで展開されていますが、それにもかかわらず、がん検診の受診率は低いままです。

 私は、このようなスローガンだけで国民の理解を得るのには無理があると思っています。

「がん検診で、本当に早期発見が可能なの?」

「早期発見して、早期に治療を開始することが、本当に有効なの?(進行がんになるのを防げるの?)」

「がん検診によって、本当に死亡率を減らせるの?」

「がん検診を受けることによる不利益はないの?」

 そういった疑問に対して、きちんとエビデンスを示し、一人ひとりに、検診の意義を理解してもらうことが重要ではないでしょうか。国民を煽るだけのスローガンよりも、エビデンスに基づく医療(EBM)の考え方が役に立つということです。

 今回紹介したエビデンスは、がん検診の有効性を明確に示したものですが、世の中には、がん検診の有効性に疑問を投げかけるエビデンスも数多く存在します。また、がん検診がもたらすのは、「いいこと」(利益)ばかりではなく、必ず、「よくないこと」(不利益)も伴いますので、検診を受けるべきかどうかは、利益と不利益のバランスで考える必要があります。

「がん検診を受けるべきか、受けないでもいいものか」

 多くの皆さんが迷っているであろうこの問題を、次回も、エビデンスに基づいて考えていきたいと思います。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

高野先生コラム_顔120

高野利実(たかの・としみ)
腫瘍内科医。東京生まれの神奈川育ち。1998年東京大学医学部卒。2010年より虎の門病院臨床腫瘍科部長。国立がん研究センター中央病院、東京共済病院などで、抗がん剤治療を専門に手がけてきた。がん薬物療法専門医会代表も務める。

がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~・コラムの一覧を見る

最新記事