オトコのコト 医師・小堀善友ブログ
妊娠・育児・性の悩み
ノーベル賞受賞者だからって…
昨年のノーベル生理学・医学賞は、京都大学の山中先生がiPS細胞の研究で受賞されました。今後の再生医療分野では大きな発展をもたらす研究として注目されています。
私が専門とする生殖医療分野でも、例えば精子を体の他の細胞から作り出すような事ができるようになれば、無精子症の患者さんにも恩恵があると期待されます。
受賞した泌尿器科医といえば
さて、泌尿器科医でもノーベル賞を受賞した人がいる事をご存じでしょうか? それは、「前立腺がんと男性ホルモンの関係」について研究されたアメリカ人のハギンズ先生です。
先生は、前立腺がんは男性ホルモンによって成長するという事をつきとめられました。そして、男性ホルモンを分泌している精巣を手術で摘出してしまう事により、前立腺がんが改善するということをはじめて発表したのです。アメリカ人では男性が最も多くかかるがんは前立腺がんなので、非常に重要な研究であると思われます。この先生は、アメリカ泌尿器科学会(AUA)を創設した一人であり、存在を知らない泌尿器科医はいないと思われます。
業績は誰しも疑わないのですが、先日の学会で、この先生が書かれたある論文を巡る問題があることを知りました。
男性ホルモン補充、ためらう理由
男性更年期障害の方には、足りない男性ホルモンを補うために「男性ホルモン補充療法」をすることがあります。
近年の研究では、男性ホルモン補充療法をしたからといって、前立腺がんにもなる率は上昇しないという結果が出ています。男性ホルモン補充療法で血中の男性ホルモンは上昇しますが、前立腺内には影響があまりないということなのです。
しかし、現在でも「男性ホルモンを補充したら、前立腺がんになってしまうのではないか?」と考えている人は少なくありません。泌尿器科医にもそのような考えで、男性ホルモン補充療法を躊躇する人もいます。
その根拠となっているのは、ハギンズ先生の書いたある論文なのです。
え、それだけで?
どんな論文かというと、「去勢したネズミに男性ホルモンを補充すると前立腺がんになる」という内容です。もう50年近く前の論文なのですが、その論文を今でも信じている人は少なくないのです。
中身をみると、研究の対象となった症例数はたったの3例、しかもそのうちの1例はドロップアウト(脱落)してしまっており、残った2例の中の1例でがんが発生したとの事なのです。
医師でなくとも、「え、それだけで?」と思ってしまうでしょう。もちろん、現代では、こんな論文はあまり信用されないのではないかと考えられます。
ですが、書かれたのがあのハギンズ先生ということで、中身もきちんと確かめず、結果を鵜呑みにしてしまう医師がけっこういるのでしょう。
どんな分野でもそうでしょうが、偉い人が言っているからといって、検証せずに、簡単に信用してはいけない、教科書に書いてあるから正しい、ではなくて、常に新しい知見を得る努力をすることは大切だ、と改めて思いました。
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機器の発達で見えないものが見えるようになったこと、治療可能領域が外科的にも内科的にも広がったことでエビデンスは大きく変わっていると思います。
情報機器の発達で、最新情報がより簡単に、より多くの人に共有できるようになったことも大きいと思います。
それこそ、地動説が天動説に変わるくらいの変化が今後医学の世界でも起こってくるかもしれません。
(先生が示された論文の脆弱さも情報機器の力ですぐに確認できますしね。)
実際、血管や神経ひとつで臓器や亜区域の機能や生存能力が大きく変わってしまうこともあり、先進地域の医療は今後よりデリケートになっていくのではないかと思います。
いい意味でエビデンスが塗り替えられていく時代であると考えます。
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男性らしいとは言われませんが
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男性の更年期障害が起こりやすい人の中に、一部心当たりがあり、まったく心当たりのないこともある。人は私のことを几帳面と言います、私もそうだと思っています。男性らしいとは‥子どもの頃「女の子みたい」と言われたのが引っかかっています。
自律神の不具合で、今も苦しんでいます。20年近くその症状が続いていますが、幾つもの病院に通いまだ結論が出てないのです。我慢出来ないことではなく、夢中になっているときは忘れますので、症状が出ていても気にしないことにしている。
それが男性ホルモンの注射で治るのでしたら、相談してみたい気がします。ただ、先日泌尿器科で血液検査した結果、前立腺ガンマーカーが少し高いと言われたのが気になる。
9月になったら再検査してマーカーに変化がなければそのまま放置。高くなれば手術も考えているところです。
しばらくは、男性ホルモン注射のことはおあずけです。
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教科書やエビデンスとの距離感 バイアス
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先日の日本食道学会学術集会である先生が「食道の拡大胸腔鏡手術をやっていると、昔解剖の授業で習ったことと違うことに多く遭遇している」と講演されていました。
悪意がなくても、種々のバイアスと言うものが存在し、また、地域差、世代差、個体差の為にどうしても論文による普遍化がうまくいかないことがあります。
勿論、言葉では表現しきれない難しさも存在するでしょう。
そういう意味で、エビデンスや教科書との距離感は大事ですね。
無視したら、ただの無知ですし、盲信してもおかしなことになります。
その辺のさじ加減を分かったオーダーメード医療が未来の主流になる気がします。
患者さんによっては純粋な寿命より、QOLを伴った寿命を志向されるでしょうから。
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