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地域の見守り「名簿」活用 災害時の要支援者

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本人同意がハードル

真野地区の避難訓練で、尼子さん(左)らは名簿を手に高齢者たちの自宅を回り、一緒に避難した(神戸市長田区で)=滝沢康弘撮影

 災害時に自力での避難が難しい高齢者や障害者などの避難行動要支援者の名簿を、地域の見守り活動や防災訓練に活用する動きが始まっている。名簿を普段から生かし、防災力を高めるのが狙いだが、課題もある。(滝沢康弘、野口博文)

 「何かあったら、すっ飛んで来ますからね」。東京都中野区の住宅街。独り暮らしの90歳代の男性に、高根町会会長の小野光さん(80)が声をかけた。男性の家を民生委員と訪れた小野さんの手には、区が提供した名簿をもとに作った要支援者のマップがあった。

 中野区は2011年、70歳以上の単身者や75歳以上の高齢世帯、障害者について、住所や名前などを掲載した名簿を作り、平時から自治会や民生委員などに提供できるようにする条例を、全国に先駆け制定した。

 国はガイドラインで、災害時に支援が必要な住民の居所を把握できるよう、名簿の作成を市町村に求めている。だが、個人情報保護条例で、個人情報の外部提供は「災害発生時」「本人が同意した時」などに限られ、普段から名簿を地域で活用するにはハードルがある。

 そのため、中野区は独自の条例で、高齢者については「本人の同意なしに名簿を外部提供できる」ルールを導入したのだった。

 「あの男性が車いすを使っていることが初めてわかった」と、見回り活動を終えた小野さんは話した。避難場所の公園に近い男性も、避難支援が必要なことが新たにわかった。

 一方、障害があると記されていた女性は「自分で逃げられる」と応答。小野さんは「普段から事情を把握しておけば、助ける優先順位もわかる」と話す。

 「津波が来ます。避難しますよー」。神戸市長田区の真野地区で3月に行われた防災訓練では、民生委員や防災組織役員らが名簿をもとに独り暮らしの高齢者などの家を回り、一緒に避難するよう呼びかけた。

 同区では、地震の90分後に4メートルの津波が予想され、避難は時間との勝負。助けのいる住民の住所を事前に把握する意味は大きい。

 訓練で、区役所まで1・7キロ・メートルを歩いて避難した女性(77)は「いざという時に声を掛けてもらえれば安心」。誘導した民生委員の尼子正子さん(66)も、「誰がどれくらい歩けるか、逃げ込む建物はあるかなど確認できた」と話す。

 同地区で名簿登録した人は300人以上。同地区まちづくり推進会の宮西悠司さん(69)は「名簿を作るだけでなく、訓練を繰り返すことで助ける側と助けられる側の顔が見える関係を築ける」と強調する。

 名簿の活用は災害時にとどまらない。

 中野区には今、全国から視察が相次ぐ。名簿を日常の見守りに活用すれば、住民の孤立防止につながるためだ。「孤立死を防ぐにも、高齢者や障害者を支える仕組みが必要と考える自治体が増えている」(同区地域支えあい推進室)という。

 5月下旬には北九州市から市議8人が訪れ、「個人情報に関するトラブルはないか」などと質問。市議の一人は、「高齢者を支える自治会が高齢化し、支え手が不足している」と危機感を打ち明けた。

 全市町村に、避難行動要支援者の名簿の作成と開示を義務付ける改正災害対策基本法が、17日に国会で成立した。作成できていない約3割の市町村は、早急な整備が求められる。

 名簿は、平時から外部提供できるようになるものの、個人情報を提供するには本人の同意が必要だ。意思確認は自治体の責任となるため「同意の意思を確認し、実効性ある名簿にしてほしい」と内閣府の防災担当は話す。

 避難行動要支援者の名簿 高齢者、障害者、乳幼児など災害時に自力で避難できない住民の氏名や住所などを載せた名簿で、避難誘導などに役立てる。国のガイドラインで市町村に作成を促してきたが、災害対策基本法が改正され、作成が義務となった。

 個人情報保護条例 自治体が保有する個人情報の取り扱いのルールなどを定めた条例。住民情報を外部に提供できるのは「本人の同意がある場合」などと規定。このため、要支援者の名簿の掲載率が1割未満という自治体もある。

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