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山口デスクの「ヨミドク映画館」

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末期がん患者たちのバンド~フェニックス 約束の歌

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 みなさま、お久しぶりです。約3か月もの間、このブログをお休みしてしまいました。

 なぜ全然更新しなかったのか、というと、4月の組織改編で仕事の質と量が変わり、ブログを書く余裕がなくなったからです。試写会にもなかなか足を運べなくなってしまいました。

 でも、ようやく仕事の変化に慣れたこともあり、ブログを再開することにしました。この間、「全然更新されてないから心配」「更新を待ってます」という温かいお言葉をくださった方々、どうもありがとうございました。毎週の更新は難しいかと思いますが、ボチボチやっていきますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします!

 さて、今回ご紹介するのは、「フェニックス 約束の歌」(2013年/韓国、全国公開中)。主演は、FTISLANDのメーン・ボーカル、イ・ホンギ。

 ……と言われても、韓流に疎い私は、最初は何の事やらさっぱり分かりませんでした。

 映画のチラシを見ての感想は、「フティス…ランド? なんだそれ?」「この主演男優って、チャン・グンソクと成宮寛貴を足して2で割ったようなイケメンだな。しょせん、韓国のアイドル映画か」(FTISLANDは、もちろんフティスランドではなく、「エフ・ティー・アイランド」と読みます)。

 あまり期待せずに観たのですが、次第に物語に引き込まれ、最後にはやられました。もう、涙ボロボロ。あれで泣かないわけにはいきません。

 ストーリーはこんな感じ。

 トップアイドルのチュンイ(イ・ホンギ)はある日、けんかをしてしまい、ホスピスでの奉仕活動を命じられる。そこでは、命の期限を告げられた人たちが、残された時間を明るく前向きに過ごしていた。ところが、資金難からホスピスが閉鎖の危機に直面、チュンイは患者たちとバンド「フェニックス」を組み、賞金のかかったオーディションを目指す。初めは嫌々だったが、毎日を精いっぱい生きるメンバーたちと交流するうちに、少しずつ変わっていくチュンイ。しかし同じ頃、チュンイに全米デビューの話が持ち上がり、ホスピスを去る時が近づく。果たして彼が出した結論とは――。

トップアイドルのチュンイ(イ・ホンギ、右)と、息子のために童話を書く女性(シム・イヨン)。窓から差し込む光が温かい。 ©KJ-net

 この作品がスクリーンデビューとなるイ・ホンギは、わがままだけど心の傷を抱える主人公を、さわやかに演じています。

 でも、(イ・ホンギのファンには申し訳ないけど)この映画の魅力は、ホスピスの患者を演じる、脇を固める俳優たちでしょう。

 奉仕活動をする主人公の指導役で、彼にクールに接する若い女性(ペク・ジニ)、たばこを吸いまくり、入れ墨を入れたヤクザ風の怖い男(マ・ドンソク)、夜の歓楽街へ繰り出すとぼけた男(イム・ウォニ)、明るくけなげな少女(チョン・ミンソ)、幼い息子のために童話を書く女性(シム・イヨン)……。

 みんないい顔をしています。いい味を出しています。演技もうまい!

 ホスピスの患者だから、その命には限りがある。最後に語られるそれぞれの思い。その手法が意外で、感動的でした。少しだけ「ニュー・シネマ・パラダイス」を彷彿とさせて。

 もうすぐ公開が終わるそうなので、観たい方は急いで劇場へ足をお運び下さい。


 さて、ホスピスとは、根治することができない末期がんの患者が、体と心の苦痛を取り除き、尊厳を保ちながら最期を迎える施設(またはそのケア)のことです。今年1月のこのブログでも、ドキュメンタリー映画「いのちがいちばん輝く日~あるホスピス病棟の40日~」を紹介しました。

 映画「フェニックス」では、ホスピスの患者たちがバンドを組んでいます。こんなに元気な人たちが入院(入所)しているホスピスがあるんだろうか、と思わないでもありません。

 でも、残されたわずかな時間をやりたいことをやって過ごすのは、がん患者の心理面にきっと良い影響を与えるでしょう。

 では、やりたいことをやって生じる心の張りや心地よさ、高揚感、達成感などが、がんの進行を遅くしたり治癒に影響したりすることはないのでしょうか。

 サイコオンコロジー(精神腫瘍学)という学問があります。

 この学問には二つの狙いがあり、一つは、がんが患者の心に及ぼす影響(不安やうつ状態など)と対処法を研究し、患者の心のケアや生活の質の向上につなげることです。こちらの研究は盛んに行われているようです。

 もう一つの狙いが、患者の心ががんに及ぼす影響、つまり、患者の心の有り様が、がんの発症や再発、治療経過、生存にどのような影響を与えるかを研究することです。残念ながら、こちらの研究はあまり行われておらず、確かなことは分かっていないようです。

 典型的な例では、患者自身が、がんを消滅させるイメージを繰り返し想起してがんをやっつけようという「イメージ療法」があります。この効果も、科学的に証明されていません。

 それでも、今年2月のブログ「がんと笑い~50/50 フィフティ・フィフティ」で書いたように、笑いが免疫力を高めるという研究はあります。笑いや満足感、達成感といったプラスの心が、体に何らかの良い影響を与えることは信じてもいいはず。いつの日か、心ががんに及ぼす影響が証明される日が来るかもしれません。

 私は、がんの末期を宣告されても、動けなくなるまでは趣味の武道を続けたい。もしホスピスにバンドがあったら、トライアングルやカスタネットでもいいから参加するつもりです(音楽は好きだけど、楽器は何も弾けないので)。


■『フェニックス~約束の歌~』公開中、配給:東宝東和

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山口博弥(やまぐち ひろや)

読売新聞医療部デスク

1987年 早稲田大学法学部卒、読売新聞入社

地方部、社会部などを経て1997年から医療情報室(現・医療部)。

趣味は武道。好きな映画は泣けるヒューマンドラマとアクションもの。

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