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米の特許無効判決 遺伝子研究広がり期待

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 米連邦最高裁が13日、乳がんや卵巣がんに関係する遺伝子の特許を認めないとする判決を出した。

 細胞から取り出したままの状態では、特許は無効としたが、応用研究は幅広く認めた。新たな特許の取り決めを生かせば、バイオ産業活性化につながると期待される。

 「生命の設計図」とされる遺伝子の特許は20世紀後半から、研究の発展を受けて注目されてきた。病気に関係する遺伝子を見つけ出し、その特許を取り、薬の開発や病気の診断に結びつけるのが、世界中のバイオ企業の戦略だった。

 裁判の対象になった「BRCA1」「BRCA2」と呼ばれる遺伝子は、米ユタ州のミリアド・ジェネティクス社が特許を持っている。乳がんの発症リスクを予測する遺伝子検査で急成長した。米女優アンジェリーナ・ジョリーさんが、この検査結果をもとに乳房を切除したことを最近明らかにして話題になった。特許無効を訴えた市民団体は「特許が(他社の参入を妨げ)高額の検査費用につながっている」と主張した。

 今回の判決で遺伝子そのものの特許は、「自然の生産物であり、発明に当たらない」などとして無効とした。日本は遺伝子そのものの特許を認めており、「国際的に食い違いが生じるが、国内の特許基準を変えるかどうか、今後検討する」(特許庁)との立場だ。

 一方、実際に生命活動を担う「たんぱく質」を作るよう改変された遺伝子の特許は認められた。たんぱく質は薬の標的になる物質で、こうした特許は薬の開発で重要な意味を持つ。遺伝子変異から病気のリスクを予測するといった、遺伝子研究の成果をいかした特許も否定していない。

 遺伝子を小麦に例えて考えよう。小麦(遺伝子)そのものの特許を認めるということは、それを使った料理(研究開発)が自由にできなくなることを意味する。今回、特許は認められず、小麦を使った料理は解禁された。しかし、既に特許が認められているパン(診断法)やクッキー(治療法)を作ることは、引き続き制限される。ミリアド社は、小麦からできるめぼしい食品の特許を網羅しており、新たに参入できる余地は少ないとみられる。

 バイオ特許に詳しい協和特許法律事務所の森田裕弁理士は「判決はバイオ企業の戦略を根底から覆すものではない」と指摘。一方、ユアサハラ法律特許事務所の山本修弁理士は「遺伝子を探索し、その研究全体を特許化するという従来の戦略の一部は見直しを迫られる」と話す。特許戦略の全体像は揺るがないが、きめ細かい対応が必要になる。

 バイオ産業の活性化に新たな道を開く可能性もある。東京理科大の生越(おごせ)由美教授(特許法・知財教育)は「遺伝子そのものの活用を制限できなくなれば、特許になっていない新たな技術を開発し、遺伝子を使う可能性が生まれる。バイオ産業の発展につながる判決だ」と意義を語る。

 先ほどの小麦の例えで言えば、まだパンやクッキーの特許が取られていない段階だったら、自らパン作りの技術を開発して特許を取れる。東京大の菅野純夫教授(ゲノム医科学)は「これまで、特許の制約のために研究開発が進まなかった遺伝子は多い」と話す。

 人間の全遺伝情報(ヒトゲノム)を解読する費用は下がり続け、数年内には1人のゲノムが10万円で読める可能性がある。研究が加速し、多くの遺伝子変異と病気との関係が明らかになると期待される。菅野教授は「特許の制約がなければ、すでに知られている遺伝子で見つけた新たな性質を生かし、診療を進めることも容易になる」と展望する。(科学部 三井誠)

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