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いのちに優しく いまづ医師漢方ブログ

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「ありがとうございます」という言葉を残してくれたKさんへ

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 胃がんの治療のため通院されていたKさんのご主人から電話がありました。先日からがんの再発で入院されていたKさんが亡くなられた、とのことでした。

 わたしと笑顔の美しいKさんとの出会いは、まだ、わたしが大学で外来を担当していた数年前のことでした。Kさんが外来にお見えになるときは、いつもご主人とお二人で診察室へ入ってこられる、仲のいいご夫婦でした。

薬の副作用に苦しみ

 「最初の手術で胃を半分取ったのです。その後、大腸にもがん細胞がみつかりました。ただ、主治医の先生から大腸にできた病気は取りきることができないと説明を受け、バイパスの手術を受けました。」とニコニコとかわいい表情でお話しになります。

 「問題は、その後なんですよ。主治医の先生に勧められた薬が、どうしても自分には合わなくて内服するのが苦しくて、苦しくて、なんとかがんばって続けてきましたが、そろそろ限界のようで、体が持ちません」と今度は今にも泣き出しそうな表情です。すると今度はご主人が「妻は、本当にがんばっているんですよ。すごい吐き気と体のだるさという抗がん剤の副作用が少しでも軽くなる方法がないものか、いろいろと調べていたところ先生を探し当てたんです」とメモをみながら治療経過について詳しく説明してくださりました。

 早速、主治医宛の手紙(診療情報提供書)を作成し、現在の治療の副作用が強いことを相談にこられたこと、漢方薬を併用することについて主治医の意見をもらいたいこと、を書いてお渡しすることにしました。

がん化学療法と漢方治療を併用

 その後、しばらく主治医によるがん化学療法とわたしの漢方治療を受けていただくことになりました。当初、残された時間は数ヶ月といわれていた状態からも回復し、春がきて、そして夏がやってきました。「先生にいわれた通り、漢方薬を飲んでいますよ。ね、元気でしょ」と外来にご主人と一緒にこられるKさんは、いつも笑顔でした。

 「あれほどつらかった副作用も、教えていただいた飲み方だと副作用も軽くすんで元気でいられます。本当にありがとうございます」と満面の笑顔で必ずご挨拶されていかれます。わたしがお教えした内服方法は、抗がん剤の血中濃度を一定に保つことにポイントを置いた飲み方です。この内服方法をわかりやすく丁寧に説明させていただいただけでした。けっして特別な内服方法ではなかったのですが、Kさんにとっては、ピッタリと合った方法だったようでした。

 その後、ときには体調が悪く、通院できない時もありました。「漢方薬が苦くて飲めません。たくさん余ってしまっています」とおっしゃるときもありました。そんなときは「いいですよ、飲めなくても。薬だけが治療ではありませんから」とご説明させていただきました。

 一時、腸閉塞になり緊急手術を受けられたときなどは、ご主人ひとりで相談にお見えになっていただきました。その後は、体の芯が冷えて体調が悪くなることが多くなりましたので、人参湯(にんじんとう)と真武湯(しんぶとう)を組み合わせて作った「茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)」を飲んでいただきました。「これを内服するとおなかが温まって気持ちがいいんですよ、ありがとうございます」と電話口でお話しするKさんに向かって思わず、わたしは会釈を返してしまいました。

最後の診察も笑顔で

 わたしがKさんにお会いしたのは、2ヶ月前の診察が最後でした。そのときのKさんは、歩くのもやっとで、ご主人も口数少なく静かにお二人で診察室に入ってこられました。そんな時でもKさんは笑顔でお話しになりました。「先生、そろそろ体がつらくなってきました。先生の外来にこられるのも、今回が最後だと思います」とはっきりとお話しされました。わたしは胸が苦しくなるのをぐっと我慢して、Kさんの話を聞きました。「漢方治療があることを主人に教えてもらい本当によかったと思います。西洋薬と漢方薬のおかげで元気に過ごすことができました。これまで本当にありがとうございました」と優しい声で話されました。

 「ありがとうございます」という言葉をくださったKさんへ。短い間でしたが、いっしょにいろいろなお話をさせていただく機会をいただきありがとうございました。わたしがこれからお会いするだろうKさんと同じ病気で苦労されている方たちに、Kさんの気持ちが少しでも届きますように。そして、「ありがとうございます」という言葉を、今度はわたしがたくさんの人へ届けられるようになりますように、みていてくださいね。Kさん、たくさんの思い出をありがとうございました。これからも、よろしくお願いします。

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いまづ医師の漢方ブログ_顔120

今津嘉宏(いまづ よしひろ)

芝大門いまづクリニック(東京都港区)院長

藤田保健衛生大学医学部卒業後に慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センター等を経て現職。

日本がん治療認定機構認定医・暫定教育医、日本外科学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医

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1件 のコメント

抗がん剤治療の副作用はいろいろ

JMBO

私は現在、通院で抗がん剤治療を受けています。抗がん剤治療というと入院して、すごく副作用に苦しむというイメージがありますが、主治医による漢方薬の処...

私は現在、通院で抗がん剤治療を受けています。抗がん剤治療というと入院して、すごく副作用に苦しむというイメージがありますが、主治医による漢方薬の処方を含めたいろいろな配慮により、そんなことはありません。抗がん剤の種類によっても、人によっても違い、そして副作用を弱める措置もいろいろあるようですね。

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