いのちに優しく いまづ医師漢方ブログ
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がん治療に疲れきった時に
「がん細胞が体の中にいたって、元気で長生きなら良いじゃないの? 先生、そう思いませんか」といつも笑顔で話すHさんは、青森県からわざわざ漢方の治療を受けに来られる50歳の乳がん術後の患者さんです。
「8年前に乳がんの手術をしたとき、リンパ節に転移があったものですから、がん化学療法を受けたのですが、これがつらくてつらくて・・・」と病気のことなのにHさんは明るく語ります。「その後、数年経ってからこんどは肺に転移が見つかってしまい、ホルモン療法が始まりました。すると副作用で、きゅうに顔が暑くなったり、イライラしたりといった症状が出て困りました。そんなときに、漢方治療を始めました」。
どんな時も笑顔のHさんに、わたしの方がいつも元気と勇気をいただいていました。
しかし、一度は消えていたHさんの肺の影が、今年に入って、再び見つかったのです。乳がん術後9年目の再発に、さすがのHさんも「やっぱり、どこかに残っていたんでしょうか」とふさぎ込みます。わたしが主治医の先生の意見をたずねると、「ホルモン療法を再開するそうです。また、副作用との戦いですね」と寂しそうな笑顔を浮かべました。
ホルモン療法と漢方治療を併用
漢方薬の基礎研究で、転移予防の効果が期待できる漢方薬がいくつかあります。例えば、がんの肝転移には、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、肺転移には人参養栄湯(にんじんようえいとう)など、病態によって選択肢が変わります。それぞれの漢方薬の異なった作用メカニズムが明らかにされています。
Hさんの肺転移を考えれば、人参養栄湯が選択肢にあがりますが、わたしはこれまでの治療経過と診察結果、そしてHさんの様子をみて、あえて十全大補湯を処方しました。Hさんは肉体的にも、精神的にも疲れきっていました。全身の状態を改善することに主眼をおいた処方です。これでホルモン療法の副作用も軽減されるはずです。
5月になり、2か月ぶりにHさんが東京へやって来ました。「青森はまだ、寒いけれど東京はすっかり春ですね」とHさんの声が診察室に響きました。「CT検査の結果、胸のがん細胞は大きくなっていないんですって」とHさんは嬉しそうに話していました。
少し安堵したわたしに、Hさんが「十全大補湯を飲んでいると、元気になる気がしますよ」といいます。人参養栄湯か十全大補湯にするか、悩んだ末に処方を決めたわたしにとって、たいへんうれしい言葉でした。
「主治医の先生に聞けないこと、不安なこと、いつも先生に全部、ぶつけるようにしています。すると心も体も軽くなって、青森に帰ることができます」。Hさんはすっかり元の明るさを取り戻していました。
◇
がん治療は、エビデンスやガイドラインにそって治療が行われます。このお陰で、日本全国どこでも質の高いがん治療が受けられるようになりました。しかし、さまざまな薬が使えるようになり、効果が期待できるようになった代わりに、多くの副作用とも戦う必要が出てきました。
そんなとき、Hさんのように漢方治療をうまく活用することで、質の高い日常生活を得ることもできます。重要なことは、ひとつの副作用を軽減するためだけではなく、体全体の状態を調節するために漢方医学を活用することだと、わたしは考えます。
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もっと早く知っていれば・・・
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義弟が今年初めに亡くなりました。昨年胃がんの手術をして後、抗がん剤の治療で心身共に疲れ果てての末でした。漢方薬が、副作用の軽減に効果が有ることを...
義弟が今年初めに亡くなりました。
昨年胃がんの手術をして後、抗がん剤の治療で心身共に疲れ果てての末でした。
漢方薬が、副作用の軽減に効果が有ることをもっと早く知っていれば、何とかなったのかな?と今とても残念な気持で一杯です。
性格もとても良い義弟でしたから、実の弟のような親しみを持っていただけに、主人もですが私もとても悲しいです。
そしてこんな情報に気付かずゴメンネの心境です。
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