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仮設住宅 広がる農園

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共に耕す 笑顔取り戻す

はまらっせん農園で参加者と談笑する高橋祥さん(右から2人目)

 岩手県陸前高田市にある東日本大震災の仮設住宅に、入居者が共に耕す「はまらっせん農園」が広がっている。地元の方言で「いらっしゃい」。県立高田病院の医師、高橋祥さん(40)が住民の心身の健康を守ろうと作った。人とのつながりや生きがいを取り戻す試みとしても注目されている。(岩永直子)

入居者同士 つながり豊かに

 夕方、野良着の女性たちが、佐野仮設住宅脇の農園に出てきた。1人4メートル四方の敷地で思い思いに植えたネギやジャガイモの手入れをしながら、夕飯の献立から持病の相談までおしゃべりに花を咲かせる。

 「いつ来てもにぎやかで楽しいよ。日に当たって体を動かすから体調もいいし」。朝夕必ず畑に出るという山本包子(かねこ)さん(71)は、高橋さんに笑顔で語りかけた。

 震災前、北海道の病院で働いていた高橋さんは2011年9月、内定していた米国留学をやめ、「今、被災地に行かないと後悔する」と高田病院に就職した。半年が過ぎた頃、仮設住宅の住民が引きこもりがちになり、体調を崩していることに気づいた。そんな時、近くに畑を借りている仮設住宅の住民が元気なのを見て、ほかにも農園を広げることを思いついた。

 「仮設住宅での長期生活による生活不活発病や生きがい喪失によるうつの予防」として企画書を出し、病院の事業とした。市内53か所にある仮設住宅や地主との交渉に走り回り、昨年、11か所に農園ができた。

 細根沢仮設住宅に入居している佐藤ミエ子さん(73)は津波で50年連れ添った夫を亡くし、近所の知り合いもほとんど失った。震災後1か月間の記憶がない。長男と入った仮設住宅は様々な地域から集まった人ばかりで、話し相手もなかなかできなかった。

 閉じこもって2か月。農園に誘われ「花ぐらいなら」と参加してみた。参加者同士、世間話をしたり、家族関係や狭い部屋でのストレスを語り合ったりするようになった。通りがかりに声をかけられることも増えた。

 部屋にいてこれからどうなるのかと不安に駆られると畑に出る。「草花の芽が出て伸びていくのを見ると心が晴れますし、畑に出ると誰かしらと話せる。畑から元気をもらっているんです」と佐藤さんは話す。

 高橋さんが参加前後で検査をしたところ、骨密度が上昇。アンケートでは「生活充実感」「生きる意欲」などが改善し、自由記述欄では「畑はみんなのパイプ役になっている」「もらってばかりだったけれど、育てた野菜をあげることができた」と喜びの声が並んだ。

 高橋さんは「生きがいや役割作りが健康につながるなら、これも医療の仕事」と語り、今後は、インターネットなどを使った交流や、参加者が少ない男性も興味の持てる取り組みを考えている。

 この試みについて、被災地の健康調査もしている東京大学准教授(公衆衛生学)の近藤尚己さんは「身体活動が増えること以上に住民の交流が促進されていることが重要。人とのつながりが豊かなほど寝たきりになりにくく、長寿であることが国内外の疫学研究で明らかになっている。このような活動が今後の復興計画に生かされることを期待したい」と評価している。

たかはし・しょう
 北海道出身。1998年、札幌医大卒。札幌医大第4内科、小樽協会病院を経て、2011年9月から岩手県立高田病院内科に赴任。専門は消化器内科。「はまらっせん農園」について、フェイスブックで発信中(https://www.facebook.com/Hamarassen)。
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