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がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~・コラム

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情報の波を乗りこなすコツ

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「○○療法でガンが消えた!」

「最先端の画期的治療法でガンに勝つ!」

「△△を飲んで、余命3ヶ月から奇跡の生還!」

 新聞や雑誌のページをめくれば、あるいは、インターネットを検索すれば、記事の見出しや、健康食品の広告や、書籍のタイトルとして、こんな刺激的な言葉が踊っています。

 がんという得体の知れない病気と向き合い、先行きの見えない不安の中にある患者さんが、何かしらの「よりどころ」を求めて、情報を探すとき、まず飛び込んでくるのが、このような言葉です。

 こんな情報の波にさらされながら、それを冷静に受け止めて、自分にとってプラスになるものだけを選び取る、というのは至難の業でしょう。

 情報の多さに戸惑い、不安だけが増幅して、「何かをしなければ大変なことになる」「この○○療法にすがりつくしかない」と思ってしまう患者さんも多いと思います。

 お金儲けだけを考える一部の業者は、そんな患者さんの心理を巧みに利用して(弱みにつけこんで)、必ずしも正しくない情報で、患者さんを惹きつけています。

 

患者を惑わすセンセーショナリズム

 このように、刺激的な言葉で患者さんを煽る手法が、「センセーショナリズム」です。

 「おぼれる者はわらをもつかむ」と言いますが、「患者さんにおぼれていると思い込ませて、『これにすがれば助かる』と言ってわらをばらまいている」というのが、この社会の現実です。おぼれていると思い込ませるために、あるいは、わらにすがりつかせるために、「センセーショナリズム」が使われているのです。

 「わら」につかまっても、多くの場合、それが助けになることはありません。患者さんは、情報を得て安心するというより、刺激の強い言葉で不安を煽られ、プラスになることのない情報にすがりついて、ますますおぼれてしまうのかもしれません。

 でも、患者さんは、病気を抱えていても、けっして、おぼれているわけではありません。おぼれていると思い込ませようとする社会の風潮に惑わされず、自分のペースでゆったりと泳いで行けばよいのです。

 情報の量は以前とは比べ物にならないくらい増えていて、波に飲み込まれてしまう危険性も高まっているわけですが、その中には、自分にプラスになる情報もたくさんあるはずです。「情報を見極める目」さえあれば、適切な情報だけをうまく活用して、自分にプラスとなる判断をすることができます。

 「センセーショナリズム」に惑わされずに、情報の波をうまく乗りこなすための「コツ」を4つ紹介しましょう。

 

4つのコツとは

コツ(1)情報の根拠を読み取る

 あなたに何かを訴えかける情報があった場合、その情報が何に基づいているのかを読み取る必要があります。何の根拠も明示せずに主張している情報を信じてはいけません。

 根拠を読み取ったら、次に、その根拠の信頼度を見極めます。臨床研究に基づいていればある程度信頼できるのですが、その信頼度にはピンからキリまであります。

 「○○教授がこう言っている」というだけの根拠は信頼できません。そもそも、臨床研究の結果を伝えるのに、「教授」などの肩書は必要ありません。情報の権威づけのためにそういう肩書が強調されているようであれば、その情報は疑った方がよいでしょう。

コツ(2)情報の送り手の意図を想像する。

 情報の送り手が、あなたの幸せだけを心から願って、何の見返りも期待せずに、情報を提供してくれている場合もあるかもしれませんが、多くの場合は、何らかの下心があります。悲しいことですが、「お金儲け」のことしか考えていない業者が多いのが現実です。患者さんの不安を煽れば煽るほどお金が儲かるので、そういう業者は、患者さんの不安を煽るために「センセーショナリズム」を駆使して、あらゆるメディアから情報を流しています。

 そんな意図を見定め、それを差し引いて情報を受け止める必要があります。

コツ(3)強い言葉を使っている情報は疑う

 科学の論文は、客観的であることが重視され、「画期的な」「きわめて素晴らしい」なんていう言葉は使ってはいけない約束になっています。過剰な修飾語がついていると、科学的ではないと判断されます。

 これは、マスメディアでも同じで、情報を正しく伝えるのに、過剰な修飾語はいりません。逆に、過剰な修飾語で飾られた情報は、送り手の意図が強く入り込んでいるので、信頼度が落ちます。

 「絶対」「100%」「劇的」「画期的」「奇跡的」「夢の」などの言葉が使われていたら、その情報には嘘があると思った方がよいでしょう。

 「ガンに勝つ」「医者に殺される」「奇跡の生還」など、刺激的な言葉にも要注意です。

 医療は不確実ですので、根拠なくズバッと言い切っているような情報も疑うべきでしょう。

コツ(4)信頼できる「エビデンス」を知る

 コツ(1)~(3)は、情報を疑うことばかり書きましたが、信頼できる情報もあるのでご安心ください。ただ、必要な情報は、ある程度、主体的に探す努力が必要かもしれません。

 自分が直面している医学的な問題に対しては、多くの場合、それに答えを出してくれるような「エビデンス」(判断の根拠となる情報)があります。インターネットが使えるのであれば、国立がん研究センターの「がん情報サービス」など、信頼できるサイトの情報を探すのも一つの方法です。

 また、身近な専門家である担当医に情報を求めるのが手っ取り早いかもしれません。最新のエビデンスに基づいて医療を行うのが医師の大事な役割ですので、あなたが必要とするエビデンスを喜んで教えてくれるでしょう。患者さんがエビデンスを知っていてくれれば、医師にとっても説明がしやすくなりますので、お互いにとってハッピーです。

 もし、担当医から納得できる情報を得られなかったら、別の医師に意見を求める「セカンドオピニオン」という方法もあります。

 

 コツ(1)~(4)は、「エビデンスに基づく医療(EBM)」を実践する際のコツを説明したものです。といっても、まだ、「エビデンス」という言葉のイメージがわかない、という方も多いと思います。次回はもう少し具体的な話を書かせていただきます。

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高野先生コラム_顔120

高野利実(たかの・としみ)
腫瘍内科医。東京生まれの神奈川育ち。1998年東京大学医学部卒。2010年より虎の門病院臨床腫瘍科部長。国立がん研究センター中央病院、東京共済病院などで、抗がん剤治療を専門に手がけてきた。がん薬物療法専門医会代表も務める。

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