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がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~・コラム

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医療情報を見極めるEBM

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 「これから行う治療は、効くこともあるし、効かないこともあります」

 「効果はある程度期待できますが、副作用もそれなりにあります」

 「いずれにしても、やってみなければわかりません・・・」

 診察室で医者がよく使う言葉です。「もごもご」していて、どうもすっきりしないですよね。

 こんな言葉よりも、

 「この画期的治療でガンが治る!」

 「副作用の全くない夢の治療!」

 なんていう言葉の方が、患者さんの心に響きます。

 それが真実であるならば、私だって、そんなふうに言い切りたい、というのが本音です。みのもんたさんみたいに、「ズバッ」と言えたら、言う方だって、すっきりするに違いありません。でも、現実はそんなに単純ではないのです。

 

「ズバッと」わかりやすいマスメディア情報

 マスメディアは、情報を、「ズバッと」「白黒はっきりさせて」「刺激的に」伝える傾向があるということを、前回書きました。

 「わかりやすさ」「善悪二元論」「センセーショナリズム」を重視しているということです。そうやって情報を伝えたくなる気持ちは、確かにわかります。情報の受け手が、それを求めているという面もあるでしょう。

 すっきりと理解した気分になれて、情報そのものを楽しみたい、という人にとっては、こういう情報の伝え方でいいのでしょうが、複雑かつ微妙な問題と真正面から向き合い、自分で納得できる判断をしたい、という人にとってはどうでしょうか?

 複雑な情報を、わかりやすく整理して受け手に伝えるのは大事なことですが、「わかりやすさ」を求める代わりに失っているものがあること、そして、白黒切り分ける際に、送り手の「思いこみ」や「意図」が入り込んでいることを、忘れてはいけません。

 「思いこみ」や「意図」など、送り手の「主観」が入り込んだ情報を、なんの疑問も持たずに受け入れて、それを根拠に大事な判断をしてしまうのは、危険なことです。情報をたくさん集め、十分に理解して、「情報の波に乗っている」と思っていながら、実は、「情報の波に飲まれている」のかもしれません。

 

EBM使い正しく判断

 そうなってしまわないように、情報の受け手は、「情報の信頼度」や「情報の質」をある程度見極める必要があります。そして、医療の情報を見極めるため役立つのが、「EBM」の考え方です。

 EBMも、白と黒(以前紹介した思考実験に即して言うなら赤と白)のどちらかを選ぶという点では同じですが、白か黒かを判断するのは、情報の送り手側ではなく、受け手側(患者さん)であるという点が重要です。

 受け手側が正しく判断できるように、判断の根拠となる情報は、送り手の「主観」をできるだけ取り除き、客観的なルールに従って、理解する必要があります。

 白と黒がごちゃまぜになったグレーな現実を受け止め、

 「どちらかというと白っぽいが、黒も○○%混ざっている」

 「この点を重視するなら白っぽくなるが、あの点を重視するなら黒っぽくなる」

 というように理解するわけです。

 一人ひとりの患者さんの価値観によって、判断はいろいろであっていいわけですが、その判断の根拠となる情報は、共通のルールに従って受け止めましょう、ということです。

 EBMの基本的な考え方は、次の5点にまとめられます。

  

(1)

人間や病気は複雑であり、医療は不確実である(白黒はっきりしているわけではなく、やってみなければわからない)。

(2)

それでも、臨床研究の結果(エビデンス)に基づいて、ある程度の予測はできる。

(3)

エビデンスとは、「どちらかというと赤よりも白の方がよい」という相対的なものであって、「絶対に赤」と言えるようなものではない。

(4)

エビデンスの信頼度は、臨床研究の質によって異なり、それを判断するモノサシがある。

(5)

臨床研究の結果に基づかず、ただ「ズバッ」と言い切るような情報は信頼できない。

 

グレーな現実と向き合う

 マスメディアが、このEBMの考え方に従って情報を流してくれればいいのですが、残念ながらそうではありません。とにかく、「ズバッ」と言い切ることに価値が置かれています。

 それでも、マスメディアから得られる情報には有用なものがたくさんあるのも事実です。そういう有用な情報をうまく活用するためには、「ズバッ」に惹かれる誘惑に負けず、「もごもごした」「グレーな」現実ときちんと向き合いながら、「情報を見極める目」を持つことが重要です。

 次回は、そのための具体的なコツを紹介します。

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高野先生コラム_顔120

高野利実(たかの・としみ)
腫瘍内科医。東京生まれの神奈川育ち。1998年東京大学医学部卒。2010年より虎の門病院臨床腫瘍科部長。国立がん研究センター中央病院、東京共済病院などで、抗がん剤治療を専門に手がけてきた。がん薬物療法専門医会代表も務める。

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