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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

ホルモン剤は「不自然」か

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上野動物園に行って暑さでだるそうなホッキョクグマを眺める娘

 週末に家族で上野動物園に行きました。絵本でしかみたことのなかったゾウさんやキリンさんを間近で見た娘は、大きさに圧倒されて凝視していました。暑い日だったので熱中症予防に気を使いましたが、これからもっと暑くなるのかと思うと、しばらくは動物園より水族館がいいのかなと思います。

 先週の「自然の摂理ってなんだろう」に数々のコメントをありがとうございました。今回はまたも妊娠・出産・育児にはあまり関係ありませんが、「自然のホルモンバランス」について書いてみようと思います。

 「自然妊娠」「自然出産」同様に「自然なホルモンバランス」が一番良いと思っている人は多いのではないでしょうか。産婦人科外来を受診する患者さんに低用量ピルをはじめとするホルモン剤を処方しようとすると、初めは抵抗感を示される方は少なくありません。 「ホルモン剤は怖い」「がんになる」というような誤解については、副作用の程度や頻度、ピルはむしろ卵巣がんや子宮体がんのリスクを減らすということを説明すると理解してもらえるのですが、「ホルモンバランスを人工的にコントロールしていいのか」「自然なホルモンバランスがいちばんよくできていると思う」と考えられている場合には、少し時間を取ってお話しないといけなくなります。

 薬を飲んでいない時のホルモンバランスが「自然なホルモンバランス」だと考えている方が多く、それが不正出血や月経不順などの支障をきたしているならば、規則正しくストレスの少ない生活をするなどしてなるべく薬を使わずに正常な排卵周期にしたいと考えているようです。支障を来している程度によってはねばらない方がいいこともあるのですが、ここでは薬さえ飲まなければ自然なのかということを論じたいと思います。

現代の暮らしは「自然」なのか

 昭和20年代では一人の女性が子どもを産む人数は約6~7人、女性の平均寿命は昭和22年で54歳でした。妊娠と授乳を合わせて約2年間排卵が無かったことを考えると生涯の排卵回数はおよそ50回だったと言われています。

 現在は平均初産年齢が30歳を超え、出生率も低迷しており、生涯の排卵回数は約500回とその違いは実に10倍です。毎月排卵が起こり、子宮内膜が増殖して剥がれ落ちることを繰り返すことが、子宮内膜症、子宮体がん、卵巣がんの発症に関連し、未産婦や子どもの数が少ない女性を中心にこれらの病気が増えているのです。そして低用量ピルの内服はこれらのリスクを低下させます。

 自然であることがいいことだと漠然と考えている人も、そもそも現代女性のライフスタイルそのものがホモサピエンスとして自然なのか、と疑問に思うのではないでしょうか。「薬を飲んでいないありのままの自分のホルモンバランス」だけを自然だと考えるのはあまりにも近視眼的であるということが分かっていただけると思います。

 更年期障害に対するホルモン補充療法にしても、そもそも閉経後にこれだけ長生きするようになったことが「不自然」なのですから、あまり自然・不自然でものを言うより、メリット・デメリットで考えた方がよいように思います。

 ホルモン剤に限らず薬には作用と副作用があります。必要なものは使い、そうでないものは控える、それにつきます。「私は断固自然でいきます」という方は是非、20代から6人の子どもを産んでいただきたいと思います。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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6件 のコメント

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変化することが自然なこと

れい

縄文時代から、人の生活って変化し続けてきて、同時に使う道具も変化し続けてきたのだと思います薬も道具のひとつなので、わたしは変化すること自体が自然...

縄文時代から、人の生活って変化し続けてきて、同時に使う道具も変化し続けてきたのだと思います
薬も道具のひとつ
なので、わたしは変化すること自体が自然で、逆行しようと抗うことが不自然ではないかと思います

子どもを生む数が減って増える病気があるなら、それを防ぐ薬を使うことが自然なのではないでしょうか

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自然と人工社会の狭間で

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

昭和20年代の寿命は多分感染症や栄養失調その他衛生面の要因による若年死の影響が大きいと思います。 その辺は統計のマジックですね。 自然が良いのか...

昭和20年代の寿命は多分感染症や栄養失調その他衛生面の要因による若年死の影響が大きいと思います。

その辺は統計のマジックですね。



自然が良いのか、人工のものを取り入れた方が良いのかは答えのない問題です。

「ホンマに自然に戻れ」って言っても無理でしょう。

ただ、過剰適応してしまうと動物としての能力が落ちてしまいます。

ホルモンを入れればホルモン産生能が上位中枢から落ちることもありますよね。

(フィードバックとか、カスケードとかいいましたっけ?)



いま、大阪で開催中の血管外科学会に来てますけど、昔みたいに治療せんと病態によってはあっという間に自然死してしますからね。

これは分野を超えて医療に共通して言えることかもしれません。



なかなか大変だと思いますけど、患者さん側の理解も深めていただいて、ライフスタイルとの兼ね合いの中で、薬剤をうまく利用していただけたらとは思います。

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確かに‥

りこ

低量のピルなら確かにいいなとは思いますが‥乳癌や子宮頸癌の発症率が少し高くなることが心配です。 卵巣癌や子宮体癌予防にも生活の質あげるのにもいい...

低量のピルなら確かにいいなとは思いますが‥乳癌や子宮頸癌の発症率が少し高くなることが心配です。



卵巣癌や子宮体癌予防にも生活の質あげるのにもいいのはわからますが‥



私の場合、癌も併発する病気の為ピルは絶対必要なので信頼出来る医師にかかる予定です。今は、授乳中の為。


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